第100期 #2

完全遮蔽物

 ある学士が、長年の研究と開発の結果、物理攻撃及び心理的攻撃から彼自身を擁護する一つの個室を創り上げた。
 物理攻撃を防ぐ仕組みとは、彼に何者かが一定圧力以上の力を加えようとする際に、透明な防犯シャッターが降りるという仕組みだった。
 心理的攻撃の防御は、コンピューターが人間の脳を特殊な光で透視し、その活動形態から学士へ不快又は呆れを持っている人物から完全に遮断するという方式をとっていた。
 幼い頃、隣人や友人からイジメを受けていた彼にとって、この部屋の創造はずっと夢見ていた事だった。
 彼はいよいよその部屋の電源を入れた。次の瞬間、共に活動していた研究者が部屋に入ってきた。すると突然、シャッターが降りた。彼女は彼が最も信用している人物の一人だった。
「ふふふ…あいつの本性は結局こうだったのか。いささかショックだが、これで人々の本当の意思を知ることができる。そしてこの部屋に入ってくる人物こそが、私の真の友人となるのだ。」
だが、彼がいくら待っても、そんな人間は入ってくることはなかった。いや、それどころか、彼がその部屋から出て旧友や新たな友人を部屋に招こうとする度、シャッターはすぐに降りてきた。
 彼は、自己嫌悪に陥った。自分はそれほど魅力のない人物なのかと。そしてある日、彼が部屋に入ろうとすると、シャッターが突然閉まった。その部屋は、彼を嫌う人物ではなく、彼を知る人物を遮断する部屋だったのである。そう、彼を知る人物こそが、彼の欠点を知りうるのだから。



Copyright © 2011 八代 翔 / 編集: 短編