第100期 #12
泡の子供は生まれてすぐに死ぬ。
いつのまにか、何かの拍子にパチンと弾けて、散っていく。
ジャングルジムで囚われのお姫様を気取った私が、もし本当に誰も見つけてくれなければ、私は死ぬのだろう。と密かに思っている。
けれどこの身体は必死に生きようとしがみついていて、意味もなくパチンと人生は終わってくれない。
シャボン玉液を零した幼児が耳障りに泣いている。
大人達はおしゃべりに夢中で気付いていない。
お前は世界に絶望しているのか?
私は素早く牢屋の鍵を破って脱獄する。
「どうしたの? 落としちゃったのかぁ」
屈み込んで、その小さな瞳を見た。
あれは、底無しに黒い。何かを見透かすように私を見ている。
「大丈夫。泣かなくていいよ」
「うん。泡の子が可哀相だったの」
「そう? 」
神様どうか、この無垢で善良な魂を孤独から遠ざけてください。
私は泡の子の為に、涙を流した彼女にひざまずく。
「ママがくるまで私と遊ぼう」
「うん、いいよ遊んであげる」
危なっかしくて、意味不明で、子供は好きじゃないけれど、すぐに笑顔になった彼女を連れて私ははしゃぐ。
遊んでくれてありがとう。
気付いてくれてありがとう。
夕暮れが静かに彼女と私の頬を赤く染める。
小さな泡の子等が風で舞い上がる。
世界に触れた私は全然、孤独でも虚しくもなかった。
ただジャングルジムのてっぺんで静かに親子が帰って行くのを見送った。