第100期 #11

ぺったんこ

 武志がわたしの胸を揉みながら「豊胸手術しないか」と切実な声を出すんで自分を全否定されてる気持ちになって武志の顔面に蹴りを入れた。「豊胸手術しないか」と言われてカチンとこない女はいないでしょ? 武志はそんなことが判らないほど馬鹿ではない。つましそのリスクを犯してでもわたしの胸を大きくしたかったということでそれが猛烈腹立つ。胸は母性の象徴であって大きい胸のほうがいいとかいうマザコン野郎は私の好みではなくて家に帰って母親の胸をしゃぶっていればいいんだ馬鹿野郎と汚い言葉を使って私は汚れちゃった。シャワー浴びてから帰ろうかと一瞬迷うけどやっぱ止めとく。武志みたいなマザコン野郎とこれ以上同じ空気を吸うのは耐えられないし息を止めたままシャワーを済ませるほどの肺活量は持ってない。わたしはホテルを出て隣のマンガ喫茶に入る。お姉ちゃんに迎えに来てとメールを打って送信。そうして漫画を二冊読破した頃にお姉ちゃんの車が通りに登場。わたしを乗せてラグーナは出発してまっすぐ家に帰るはずが変なところで右に曲がって人気のない路地に入り込んでいく。いよいよおかしいと思い出した頃にはもう遅くてお姉ちゃんは車を駐車してわたしの体に跳びかかる。お姉ちゃんの顔が林檎飴みたいに真っ赤になってるのはお酒を飲んでいるからではなくわたしと二人きりで興奮しているからでお姉ちゃんはわたしに姉妹愛を越えた愛を抱いていてそれはつまり同性愛だ。やめてーと暴れてもお姉ちゃんはやめなくて、そんなこと言っても体は正直よ、と耳元で囁くのだけれど体も拒絶反応示してるから。鳥肌が立ってる。正気に戻れ、ってほっぺたを引っ張ったらモチみたいににょーんとお姉ちゃんは伸びた。おもしろい。痛い痛いギブアップってお姉ちゃんが手を上げたからわたしは許す。ラグーナは今度こそ家にまっすぐ向かう。
 武志は今日はお酒が入ってたせいであんなのだったけど、わたしを愛していて明日になれば昨日はゴメンと謝りにくるだろうけど、わたしはもう彼を愛せない。
 お姉ちゃんはわたしが大好きでわたしもお姉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんの愛を利用して車で迎えに来てもらうけど愛し合うのは無理。わたしノーマルだもん。
 わたしはいろんな人に愛されて成長していく。この胸いっぱいの愛を捧げる相手を今探し中。



Copyright © 2011 三田村真琴 / 編集: 短編