第10期 #5

有閑社員

 五月中旬の月曜日、珍しく早く目を覚まし、清々しい気分で出社した。金曜は有給休暇を取ったから久々の出社だ。三月までは月曜といえば憂鬱な曜日だったが、月・水・金だけ出社すればよくなってからは、月曜が憂鬱だと感じることもなくなった。閑散としたオフィスに入ると、私の部署には今年の新入社員がいるだけだ。癖で挨拶をしたが、彼はこちらを一瞥することもなく黙々と仕事をしている。いつものことだ。彼は仕事に関係のない話は一切しない。
 彼が入社する前、この部署には七人の従業員がいた。しかし、そのうち五人は彼が入社して間もなく解雇された。彼がとてもよく働くからだ。残ったのは私と片倉のニ人だけ。片倉は火・木・土しか出社しないから、今では顔を合わせることもなくなったが。
 私と片倉が週に三日だけ出社すればいいのも彼がとてもよく働くからだ。彼は月曜から土曜まで毎日働いている。もちろん私達の給料は減ったが、彼はそんなことを気に留めるはずもない。私と片倉が解雇されずにすんだのは、他の連中よりいくぶん若いのとメカに強いからだが、私達もいつ解雇されるか分からない。他の部署もだいたい同じような状況だ。今年の新入社員は、皆本当によく働く。
 私と片倉には特に決められた仕事があるわけではない。業務は基本的に全て彼が遂行するからだ。どうしても彼には対処できない場合だけ、私や片倉が対処することになっている。ごくまれに、「電子メールが読めない」と言ってくるが、たいていはメールに誤字脱字があるので、それを直してやればよい。それ以外の仕事といえば、彼の世話をすることだけだ。しかし、その必要もほとんどない。うわさには聞いていたが、ここまで仕事がデキるとは思っていなかった。そんなわけで、午前中はネットサーフィンをして過ごした。
 昼休みになったが、彼は相変わらず黙々と仕事をしている。会社の食堂は閉鎖されたから、私はビルを出て近くのファーストフード店で昼食をとることにした。以前は昼時ともなればサラリーマンやOLで混み合っていたが、最近は閑古鳥が鳴いている。他の会社もウチと同じような状況なのだろう。
 あじけない昼食をすませてオフィスに戻ったが、彼は昼休みの間もずっと仕事をしている。感心するほどよく働くが、一年もすれば彼も解雇されるだろう。その頃には、彼よりも高性能なロボットが開発されるからだ。
 さて、午後は何をして過ごそうか……。



Copyright © 2003 も。 / 編集: 短編