第10期 #2

バイバイ、スキャットマン

「でぇでも、こぉ今夜は楽しかったね!」
「はははい、みみみみんな、イイ感じで酔ってましたね!」
 深夜の喫茶店は、まったりと話し込むカップルや、深夜まで家をほっぽり出してふらつく上品なマダムたちで満席だった。鈴木さんは陽気に笑ってこう言った、時代は変わったんだね、と。
「じぃぃ自分らの頃は、うまく喋れないことで物怖じする子たちばかりだったけど、そぉそのう、中学の頃、教科書の朗読が苦痛でねえ、生きていくのも疲れていたよ、今思えば、その日は別に、がぁ学校、ズル休みしたって良かったんだよね。天罰なんて、なかったんだよねえ。教室の机で一人、真面目な十字架を、背負っていたね」
「ぜぜぜんぜん“朗”読じゃないですよね、どどどこが朗らかなんだろう!」
 そう言って僕達は笑いに笑った。

 夜の街を歩こう、そう叫ぶウキウキ気分の鈴木さんと一緒に、僕は最後の時を付き合うことに決めたんだ。深夜の目抜き通りが派手な暴走族のパレードみたいになっていて、その輝きを見て、感動した。歩道に座り込んで虹色の携帯を点滅させる南国姿のコギャルたち、それを見て鈴木さんが、
「こぉこのコたちは、どこから来て、どこへ行くんだろう♪」
 と、ふざけて訊いてくるので、僕も笑ってこう叫び返した。
「きききっと、このカワイイコ達なら気持ちよくこここう答えてくれますよ、どこからも来ず、どこへも行かないんだ、うせろ!って♪」

「きょぉ今日は最後に、みんなに会えて嬉しかった! もう僕らは、誰かにわかってもらおうと、必死になって理解を迫ることもやめにできるし、重度や、きょぉ境遇や、世間のせいにするのも、やめにできるんだよお!」
 道ばたのゴミの中で自分の自転車を探す僕に向かって、鈴木さんがそう叫ぶや否や、
「うっさいんだよ、てめえら!」
 と、背後でヤンキー達の声がした。
「最悪です! ボボボ僕のママチャリ、ボボボボコボコです!」
 自転車を見つけてそう叫んだ僕は、途端にヤンキー達の蹴りを喰らってよろめいた。振り返ると猛ダッシュで走り去る鈴木さんの後ろ姿、そして最後の挨拶を聞いたんだ。
“にぃぃぃげろぉぉぉぉ!”

 素晴らしさのあまり髪の毛が逆立った。漲る力を覚え、僕はネオン街へ駆けだした。
「待てや、この野郎!」
 ヤンキーよ、また会おう! 途中すれ違った風俗嬢らしき女の人の、シャンプーの香りが凄く良くてウットリし、僕はなぜかアリガトウと口走っていた。



Copyright © 2003 はっすぃ / 編集: 短編