第1期 #2

『Service Business』

 よう、御同業。先輩として、おまえに幾つか忠告しておくぜ。
 まず、当分は楽して飯が食える――なんて甘い考えがあるんだったら、今ここで捨てておけ。今日び、俺やお前の代わりなんて、掃いて捨てるほどいるんだからな。
 いいか、この商売、所詮はサービス業だ。何も分からない振りして、向こうの一挙手一投足を見逃すな。向こうがこちらに何を望んでいるのか――そいつを常に考えるんだ。
 だがな、ただで食わせてもらう換わりに愛を与えてやる――これは口でいうほど簡単じゃない。
 向こうの望みってのが、いつでもこちらに完璧を求めてるとは限らねえ。大抵の場合は、向こうが望むハードルを越えてやりゃ、手を叩いて喜ぶんだが、それだけじゃダメなんだよ。たまにわざと失敗してやるんだ。そして泣きついてやるんだ。
 向こうの要求を十二分に満たしつつ、たまに失敗してやることで「ああ、この人も自分と同じなのね」と思わせてやれるんだよ――このテクニックをマスターできるか否かで生死が決まるといってもいい。
 向こうが俺たちに求めてるのは、一から九まで完璧にこなしつつ、最後の一つは自分を頼ってくれる存在なんだ。向こうに、「この人は自分を分かってくれる」かつ「この人には自分が必要なんだ」、とそう思わせるように振舞わなくちゃ、おまえ、明日にでも仕事干されるぜ。
 ――ま、一言でいっちまえば、「向こうが望む存在でありつつ、同時に向こうと同じ存在」ってのを演じればいいんだよ。
 ……なに、分からない? おいおい……おまえ、下に若いやつが入ってきてヤバいんだろ? そんなんじゃ、すぐに相手にされなくなっちまうぜ。
 ……なに? 「演じるのはもう嫌だ、ありのままの自分でいたい」だと!?
 はっ! 処置無しだね。おまえとは、これでサヨナラだ。もう会うこともないだろうな。


「あら、どうしたのかしら? この子、急に泣き出しちゃって」
「お子さん、今年で一歳でしたっけ? 赤ちゃんは泣くのが仕事っていいますからね。家の子も、たまに夜泣きしたりで大変でしたからねぇ」
「何だかこの子、お兄ちゃんになってから夜泣きが増えた気がするんですよね……どうしてかしら? 前はもっといい子だったのに……あら、泣きつかれて眠っちゃったわ」
「ふふっ、手のかかる子ほど、寝顔がかわいいものよね」


 あばよ、御同業。せいぜい、テメエのままで愛される――なんて下らねえ夢でも見てるんだな。


Copyright © 2002 橘内 潤 / 編集: 短編