投票参照

第93期予選時の、#22そらみみ(高橋唯)への投票です(1票)。

2010年6月22日 20時57分44秒

 『明日はそんなに晴れじゃなかった』と『スーパードライ』は、読後早々に投票を決めていたが、残り一作に何を選ぶかはさんざん悩んだ。結局、手がたく書かれた今作に票を入れることにする。
 小説の中に対立物を導入し、そのコントラストが生むダイナミズムを原動力に語りを進めていく作者の手つきは、あざといほど明快である。「日光をやわらかく反射し」た水面、「幼い掌を太陽に手を伸べるかのよう」な稲、静穏そのものの田園風景が、末尾、「無数の掌に引きずり込まれるようにして」太陽を沈ませ、「青灰色の闇」を垂れこめさせる。開始と終局、対立を際立たせるこの二つの場面を架橋するように物語る間も、作者は次々に新しい二項対立を放りこむことを忘れない。「格調」と「劣悪」。メールや電話で親密に語りかけてくる声と、心の中のどす黒い嫌悪。「ふわふわでまあるい」仔猫と、その仔猫に向けて一閃する暴力。
 この小説にたった一つ不満があるとすれば、「猫を殺す物語」はすでにクリシェになり下がってしまっているのではないか? ということに尽きる。
92期の石川楡井さんの『綺羅』と同様、猫の殺害がエスカレートする殺戮の端緒になったり、やり場を失った殺意のはけ口になったりする物語/言説を、僕たちはもうすでに(例の酒鬼薔薇事件以降、特に、)数多く語り・聞かされてきたのではないだろうか。(でんでん)

参照用リンク: #date20100622-205744


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