第91期決勝時の、#18愛のしるし(高橋唯)への投票です(3票)。
愛のしるし
高橋氏の作品が短編に載るようになってから一年目だが、時がたつにつれて実に好みの作品になってきた。
初期の頃はグロテスクさがあまりに前面に押し出され、そればかりに目を取られて小説として楽しめなかった。しかし徐々にグロテスクは効果的な添え物になり、物語の味を引き立たせるようになっているのが嬉しい。
この作品も、無残な飛び降り体の傍らで、少女と霊が雨の中会話を交わすシーンなど、脳裏に浮かぶ情景がとても良かった。
「化石」とどちらに投票しようか迷ったが、今期はこれにする。
化石
言葉の美しさがたまらない。最初から最後まで楽しいと実感しながら読み進められる。千文字小説でこれができるというのは素晴らしいことだ。
ただ自分勝手な評価基準だが、物語性ということになると「愛のしるし」に及ばない。断片的な夢のように感じてしまう。もちろん楽しい夢だが。
タコの修復
宇加谷氏の小説には味がある。匿名で投稿してもすぐにわかってしまうほどの、強烈な独自性を感じる。しかもそれが鼻に付かず、心地よい。
たとえば仮に今期の短編の投稿者が1500円のハードカバーを出版したら、自分が買いたいと思うのは宇加谷氏のものだけだ。
ここまで褒めてみたのだが、この作品単体の評価となると少し辛くなる。たしかに読後感は素晴らしく、読んでよかったと思える一品だ。
だがそれは今までの作品との密接な関連があってこそ。投票するからにはやはりこの作品だけで評価しなくてはいけないと考えると、上2作よりはわずかに劣る点数をつけてしまう。
ものおと
主人公の意識の確かさを漢字の量で表現する技法は、斬新ではないもののとくに嫌なところもなく素直に楽しめる。
最初の鼻毛のくだりが全体によい影響を与えたように感じられず、ただの文字数稼ぎに見えてしまうのが残念なところ。
ワカレサセヤ
文体がいい意味でも悪い意味でもケータイ小説を思わせる。しかし内容はショートショート。
どんでん返しにさほど面白さを感じることができず、そうなると文章の肌の合わなさだけが残ってしまう。
個人の勝手な評価ということで作者には勘弁してもらいたいが、今期決勝では当作品だけがとても拙く思える。
参照用リンク: #date20100504-203346
説明が大胆に省略されているので、いろいろな想像をさせてくれる。少し読みづらく、すっきりしない感じもするが、誰も真似できない独特の小説世界を持っていると思う。
参照用リンク: #date20100501-233835