第90期予選時の、#22泉(qbc)への投票です(3票)。
中編が一本書けそうな内容・設定の濃さと、描写の妙。
「黒いストレッチデニムに包まれた叔母の脚が見える。俺は暖簾をくぐる。台所に叔母が立っている。灰青の刺子の割烹着の背中が見える。叔母は俺に背中を向けている。顔をうつむかせている。乳白のうなじが見える。」
文章の中に“時”が確かに流れ、人間が息づき“見て”いるのを感じさせる映画的技巧。
参照用リンク: #date20100325-180036
作中でいきなり泉が湧こうものなら、たいていの凡庸な書き手はものほしげな象徴性をまといつかせずにいられなくなるはずだが、そんなありきたりな象徴への誘惑をしなやかにすり抜ける作者の感性は、あくまで繊細だ。それにしても、この作者の語りと手法の多彩さには、驚いてしまう。(でんでん)
参照用リンク: #date20100324-185648