第80期予選時の、#32翼の夢(黒田皐月)への投票です(3票)。
翼の夢
翼がほしい、という妄想は失礼ながら使い古された常套句のように思えた。だが、そのマイナス点(私にとっては)を補ってあまるほどに文章がいい。文章がいい、というのもこれまた傲慢な感想であるけれども、つまり、作者自身の語彙で書いている小説といえて無理がなかった。読んでいて(ここは5分くらい考えた表現だろうな)だとか(やろうとしていることはわかるけど読めないしなあ)といった邪推する暇もなく、すらすらと読めて、その文章の中に作者の声が聴き取れた。妄想、と一語で言い切れないほどの切実さと誠実さが、読後しばらくして、じわじわとくる。
だからやっぱり「翼がほしい」が残念だった。「翼をください」(だったかな)といった歌を連想してしまったりもして余計に。ここは、「アカシック・レコード」では妄想に妄想を足してアレなので、たぶん少しズラしつつ現実と仮想を配合して、虹色の色鉛筆とか、いまいちか。では「擬装少女」を追想して「まっかなハイヒール」とか。
<実際にハイヒールで歩けるはずはない。まっかなハイヒールを買ってきたところで、オレの足は本物の女ほど細くもなく、勇気もたりない。オレは、強くないのだ。地に足を着けて生きている人間は、それだけ世間の事象に地に支えられ、縛られている。砂塵が舞い、轟音に揺れるこの地上こそが、現の世界。>
……とかだったら、悲哀に滑稽さ(失礼)が加わって笑いながら読めて、あとでハタと作品の深みに気付けるような作品になっていたと思う。あくまでも自分勝手な感想ですが。
参照用リンク: #date20090520-175823