第8期決勝時の、#21散桜花(紺詠志)への投票です(4票)。
こわいもの見たさ、というか、どこか不気味とも感じられる作品の残す後味の悪さ、といったものに惹かれることがあります。読んだことによって、少しの不安が生じるような作品。『不器用な教師』とは、いったいどういった存在なのか、と私はいささか暗い気持になりました。『よくできましたね』という言葉のそら恐ろしさ。敵の甲板が迫ったその瞬間にその言葉がつきつけられることによって、読者である私は、彼女の罪深さに少なからずの戦慄を覚えます。けなげな少年と無邪気な女教師の美しい物語、というのも真実ではあるけれど、その裏側に潜んでいる恐い一面。そして、だからこそまた「美しい」も凄みをもった真実として迫ってくる。はたして女教師とは、ではいったい何者なのか。そういった読み方の可能な、恐い話だと感じました。中盤の戦闘場面の描写については正直退屈な感じを受けたのですが、大胆な場面転換によってこその、ある種の効果をはっきりと感じることができ、面白く読ませていただきました。
他の作品について。
『ソング』は、最初、こちらを推そうかと迷った作品です。その場の空気をありありと感じることができる、世界に浸れることの喜びのある作品でした。読み進める楽しさを感じられるかどうかという点では、この作品がもっとも優れていたように思います。(こんな歌が好きだったのか)、というのは、非常によくわかる感覚に思えました。そういう感想を持つことが、たしかにあって、そのときの笑ってしまう感情、というのがじっさい私のうちにも起こってきました。
『枕』については、おそらくファースキスあたりの話だろうと読んだのですが、ただそのことばかりが強調されているようで、なぞなぞ、のような白けた感じを持ちました。背景、というのが具体的に迫ってこない。この女の子と男の子の関係が、類型的にうすっぺらに感じられるのです。切り取られた場面から、その思いの錯綜の背景を、もっと豊かに読むができたら、と思いました。
『作家の風景』については、あまり感想といったものが浮かびませんでした。単純につまらなかった、というところでありましょうか。
参照用リンク: #date20030418-235223
場面転換や回想の妙。非常に映像的であり、ストレートである。そして魅せ方を良く心得ている。主人公のセリフや心象ナレはまったくなく、ほぼ状況描写のみ。それが主人公の孤独や覚悟の重さをよく伝えた。新鮮さはないが、手馴れた構成と表現によって力を見せた。男×女、少年×大人、生徒×教師、軍人×民間人、戦地×銃後、動×静、任務×私情、さまざまなコントラストがあり、それを群像によって散逸させず主人公×スズ子に収斂させた。相反する二面をすっきりと使い分け、ドラマ性を高めた。
参照用リンク: #date20030412-231913