投票参照

第74期予選時の、#28眼鏡(川野)への投票です(1票)。

2008年11月27日 13時6分4秒

・作品から受けた印象

 疑問から先に書いてしまうと、人称が「僕」であることだろうか。断然、この作品には「俺」が向いていると思う。というのは文中の「ああ、そういえば、俺の眼鏡はプラスチックレンズだった」の一文が実によく合っていたからだ。「僕」のナイーヴ感も悪くはないが……。

 しかし「僕/俺」はともかくとして、眼鏡という<モノ>の声を見事に語らせている点で見事だ。ただの眼鏡が主人公の視点でみてみると特別なものとして思えてきたりする。とくに「レンズ越しにモノを観るということ」について考えてみたくなる。

メガネの六年間、メガネが移動してきた東京という町、新宿の雑多な光景、そして壊れてしまうメガネ。主人公はふたたびレンズ越しの風景を求めたいと思う反面、普通に地上を歩き続けられれば、とささやかな生活を思ってみたりする。その葛藤が明確なものではなく、眼鏡を巡るゆるやかな思索といった点に、作者の声を感じた。

・他作品と比較して推す理由

主人公が作品の中で考えている、といった点で「FUSE」と比べてしまうが、ある点で両作品には違いがある。「FUSE」は観念的であるようにみえて、実は物語的な要素に可能性がある。一方で「眼鏡」はあくまで主人公の独白である。本来なら物語的な要素を好む点で「FUSE」を推すけれども、「眼鏡」の持つ作者の声の魅力が飛びぬけてすばらしかった。

小説の魅力というのは結局のところ、「小説とはこうだ」という読者の思い込みを、いい意味で作者が押し切ってくれるところにある。

参照用リンク: #date20081127-130604


編集:短編 / 管理者連絡先: webmaster@tanpen.jp