第70期予選時の、#3恋の花(ゆきかおり)への投票です(1票)。
正直に書くと、今期、私は「エレキ発電所映画祭」と「夏の散歩」におおいに心を揺さぶられ、これらの作品から楽しみと同時に<表現とはなにか?>と宿題をもらったような気がしている。
しかし、超上質な「夏の散歩」や超前衛な「エレキ発電所映画祭」は、親しむには敷居が高いのに較べるとこの「恋の花」はアメリカのウェルメイドなラブコメディーを、コーラとチップスを用意してみているような気安さと満足感がある。
思うに物語はそれが神話であれ昔話であれ風俗小説であれ、読み終えたあと、読み手の心にその小説のある部分が自分だけの脳内映像化として残るかどうかで決まるのではないか、と個人的に思う。私は、この作品を読んで、なぜか名前から武田百合子を連想して、武田百合子が深夜のラブホテルのちらかったゴミを捨て、シーツを直しながら、口うるさい先輩社員の指の動きを思い描いている映像を、思いうかべてしまう。(実際、主人公はフロント業務であって掃除をしたりしないとは思うのだけど…)あるいは、従業員たちが先輩社員を「独裁者」と陰口をたたき、それを知っていても仕事と割り切った彼が、仕事帰りにすごす一人の時間を頭の中に映写してみると、恋以外の部分も光ってくる物語だなあ、といろいろと感じるところがある。なによりも正しい感じがいい。すっかり正しさというのは少数派になっている時代ではあるけれども。
参照用リンク: #date20080716-150649