第7期予選時の、#6バランディオ(野郎海松)への投票です(3票)。
哀感がたまらない魅力のピカレスク小説の逸品。
梶井基次郎の「檸檬」でも5800字以上。これほどのドラマを有しながら1000字で描ききっていると見た。もし骨格だけだったとしたら、このペーソスは迫ってこないはずだ。では何故、この短さで、この素材を活かし得たのか。作者は悪漢バランディオに共感と同情をもって描いているからだろう。所詮世の評価などこのようなものなのだ。かつてキリストもこのようにして世から締め出されたのである。
参照用リンク: #date20030304-201108
バランディオ/野郎海松
経緯の詳細を述べず、ただ流れ者の身の置きどころの変遷を追ってゆき、ついには闇を疾駆する孤独な姿へと還る。あまたの異名だけを残して。ひとりの人間の半生の簡潔な記録であり、いわばプロフィールであり、この手法における成否は、読者がバランディオという人物を好きになれるかどうか、というところだろう。私は好きだ。読みがなはできるだけ使わずにすむよう工夫したほうがいいと思う。
参照用リンク: #date20030304-061005
「悪漢小説(ピカレスク・ロマン)」は好みなので。
文体は違うが、「幻影(まぼろし)の盾(夏目漱石)(http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/780.html)」を感じた。
パランディオが生き抜くたびに異名が増えていく。
その凄絶な過程と飄々とした有様の対比が面白い。
「蝙蝠」の異名だけ括弧付き、というミスも、テンポの良さで気にならなかった。
中短編で読みたいが、テンポの良さと緊迫感が残せるかどうか。
<久遠>
参照用リンク: #date20030303-005316