投票参照

第68期予選時の、#10擬装☆少女 千字一時物語28(黒田皐月)への投票です(1票)。

2008年5月26日 16時49分22秒

「擬装☆少女 千字一時物語28」

 女装に憧れるものの、まだ“未経験”である男が、いよいよその道へ踏みこもうと女性用(?)の日傘を買う。が、勇気がなくてさせない。一度は布団に潜り込んですねてしまうものの、最後の最後に傘を開いてみれば、それはただの日傘で普通にさして歩いたという話だと読んだ。

 面白かった。この作者はもう28作も「女装」がテーマであり続けていて、いささか読む側としては飽きていた。これまでいくつかの傑作も書いているし、いいかげんにほかのテーマを書いてくれよ、とお願いしたいくらいであった。私は女装に興味なんかないし、たとえ興味があったとしても、毎日テーブルに濃厚なチョコレートパフェばかりだされたら、甘党だって耐えられないだろう、それと同じようなことだ。

 だが、この作品はいつもと少し違っていたように思う。どろどろのチョコレートではなく、毎日でも食べ飽きないようなチョコクロワッサンくらいにまで、テーマに深みが加わっていたように思える。具体的にいうと、女装に悩む男、という設定はいつも通りであるけれども、一人の青年がいつもの自分ではない別の可能性を探る話として、女装を頭から外しても、あるいは女装に興味をもったふりをして読める。こうした興味のない読み手に、一時的に興味をもたせるのって相当な技術力だと感心する。
 
 一本の日傘(それは女物であって、男が日中にさすのは違和感がある)を、気弱な男が大通りでさすのにとまどっている。たぶん、世の中の群衆は、たった一人の男が全裸で走っているわけでもなく、ただ日傘をさしているのなんて、気にもとめないだろう。それは本人だってわかっている。しかし、気弱な男にとっては、その一本の日傘をさすことさえ、最初は苦しかったりするものなのだ。

 こういう経験は誰にでもあるんじゃないだろうか。私にはある。別に女装をするわけでもなく、ただ新しい帽子を買って、かぶってみれば「名探偵」みたいにみえてしまうのが恥ずかしい、が、かぶってみたい、そういうイメージもいいんじゃないか。そんなささいな変身願望と自意識のせめぎあいのようなものは誰でも日々経験していることだと思う。そういった日常の細やかな内面の葛藤のようなものが、たった千字の中に表現されている作品だった。「あくまでも女装をテーマにしつづける」というところは作者のエゴであると思うけれども、続けるということは本人が思っている以上に、大きな力をもつことがある。28個の女装小説が書かれる2年以上前よりも、世の中は「女装」趣味の人が増えている気もしているし、ブームがきたとしたら、作者はその第一人者となっていくだろう。そういう予想を勝手にする楽しみまで与えてくれる。

参照用リンク: #date20080526-164922


編集:短編 / 管理者連絡先: webmaster@tanpen.jp