第28期予選時の、#8告解(朝野十字)への投票です(2票)。
僕の読みに間違いがなければ、この小説、全編これカフカの『判決』のパロディーであり、特に前半部は大胆不敵な引用であって、その心意気にまず唸った。
大きく変更されている点は二つあり、作者の力量もそこでさらに際立っている。
一つは、『判決』における父親の役割が、ここでは母親に転嫁されていることで、物語は末尾、カフカの世界から急転直下、スリラー的結末へと強引に接木されることになる。作者にその意図があったかどうかはともかく、この結末、僕としてはヒッチコックの『サイコ』あたりを連想してしまい、ヒッチコックによるカフカ批判?あるいはその逆!?などという楽しい妄想にしばし浸ってしまった。
もう一つの大きな変更点は、『判決』の中で起こる世界の反転をさらに一歩押し進め、友人が実は自分自身だった(しかも妄想としての!)、というオチまで転換を誇張していること。この転換によって、作者はカフカの短編から重要なエッセンスを摘出した。今作を読んでしみじみ感じたのは、『判決』が隠し持っていたギリシャ悲劇的な(『オイディプス王』的な)本質――自己認識が深まるにつれ、知り尽くしていたはずの「自分」が他者としての相貌を見せ始めること、その恐怖――である。
今作は換骨脱胎、捨て身の本歌どりで、その恐怖を深く浮き立たせることに成功したと思う。(でんでん)
参照用リンク: #date20041207-133543
暗いなあ。死んだり殺したりするのははっきり言って好きじゃないんですが、でもやっぱり完成度は高いですね。心理描写などしっかりしていますし。
短い字数できちんと構成を考えて書かれた、基本的(ほめ言葉です)な作品だと思います。
参照用リンク: #date20041205-224800