投票参照

第28期予選時の、#25トンネル(朽木花織)への投票です(1票)。

2004年12月7日 13時35分43秒

今期、一作に絞って選ぶなら、これだと思う。
 描写の本質をちゃんとわきまえている作者の筆は自在だ。疾走する車から見聞きする、輪郭のおぼろで曖昧な世界は、そのまま「僕」の存在それ自体のおぼろさと同期している(「暗闇と白いライトのごちゃ混ぜになった世界」、「ノイズのような雨音でかき消されて見えなくなってしまう」)。そしてその曖昧な世界に、まったく唐突に、不思議な衝突物が投げこまれる。それは「てらてらと青く光る蛞蝓」だ。曖昧で形のない現実の世界とは対照的に、夢の中のその蛞蝓は克明な描写をともなって増殖していく。スタイルを作り、次いでそれを別のスタイルによって突き崩す、そのバランスのとり方は絶妙というほかない。
 一瞬だが悪夢的なそのイメージが、なぜ「僕」の心をよぎるのか、説明はない。対置されるのは、「あたし、女よ」という、文脈に回収されることを微妙に拒む台詞。そしてキスをした瞬間に唇に残る、「食べることができ」そうな「生暖かい感触」だけだ・・・ 
 描写を武器にして1000字を書くことについての、お手本のような短編。素晴らしいです。(でんでん)

参照用リンク: #date20041207-133543


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