第261期予選時の、#3遠いところから、遠いところへ(たなかなつみ)への投票です(2票)。
人間は誰しもお互いに「ずれ」を持っていると思うが、それは、異物としてネガティブに捉えられることもあれば、個性としてポジティブに受け入れられることもある。
この作品に登場する彼女の「ずれ」は、おそらく100%ネガティブなものであり、「ずれ」を埋める努力を怠ると、その「ずれ」はどんどん大きくなって取返しがつかなくなるという絶望的なもの。
この作品を読んで思ったのは、歳を取るっていうのは、こういう、世界を作っている大きな何かや、世界の中心のようなものからの「ずれ」がどんどん大きくなっていくことなのかなと。
自分では普通の(中心に居る)つもりでも、歳を取ると、世界の中心に居続けることが困難になってきて、中心に居続ける努力もしだいに忘れてしまうような。
歳を取ることは死に近づくことで、「ずれ」と同じく絶望的なものだけれど、共感できる誰かがいれば救われることもあるし、何とか今日を生きていくこともできる。
参照用リンク: #date20240617-194117
この作品には2ヵ所、読者を驚かせる仕掛けがあります。
1つは8行目、「彼女」がずれているのは、感性でも感覚でもなく「時間軸的」にだった、というところ(5行目の「周囲が笑うところで笑えない。自分ひとりだけが笑う瞬間がある。」が利いています)。
2つ目は、15行目。三人称の語りとして読み進めていた読者は「私」の登場によって、一人称の語りだったことに驚きます。
この2つ目の仕掛けはさらに、読者が客観的に捉えていた「彼女」を、「私」を通した主観的な存在に変えてしまいます。そうして一気に、「彼女」と「私」との切実なコミュニケーションが描かれていくのです(エモい)。
参照用リンク: #date20240615-184327