第253期決勝時の、#8縫い物をする人(たなかなつみ)への投票です(3票)。
私も、昔から着続けている服をよく繕ったりするから、この作品の感覚は実感として何となく分かる気がする。
長く着ている服には、どうしても直せない、劣化した、壊れた部分が出てきて、裁縫の素人(私)にはお手上げ状態になることがある。
この作品は、若い人や、新しい服を買えばいいという人には趣旨が伝わらないかもしれない。
その点では普遍性に欠けると言える。
でも「老い」や「寿命」を、上手く喩えている点は評価できる。
参照用リンク: #date20231108-190510
とにかく「わたし」はとんでもなく疲弊している。「利き手」の「逆の手でほつれをかがる技術はわたしにはない。」というのは、きっと「わたし」の「親」にもその技術がなかったからなのだろう。「大事なもの」が誰にとって「大事なもの」なのかはわからないが、とにかくそれは「もう歩くこともできない」状態になるほど「重く」なるもののようだ。「わたし」は「今までと同じようには動かせない」「利き手を目の前に掲げて」「ほつれをかがることはできるだろうか。」(「生き続ける」ことはできるだろうか)と思う。
(三浦)
参照用リンク: #date20231105-201901
#8 縫い物をする人
ぬいぐるみの住人の世界のようなファンタジックなパッケージでひどく人間を書いて揺さぶってくるこちらの作品に。
自分の綻びを自分でなおす自分の日常と、人の善意に少し触れた温かい気持ちから、他人の善意で自分の中がいっぱいになってしまうっていう苦しい恐ろしい疲れる気持ちへとグラデーションしていく非日常。SNS時代の、もしかすると普遍的な、共感がしみじみと生まれた。それでいて全体として、デザインされていて、隙のない作品でもあった。
強い感情と、それを他人にそのまま叩きつけずにふさわしい形に加工して良いものを作ろうとする気持ちを感じた。
どちらかというと、最優秀賞を決める審査員みたいな気持ちでこれを選んでしまった。
#1 無敵の人
何か励まされる、自分を思い出し、自分を好きになれるような、価値のあるものを書いている。
#3 あれ
どうしても「伴侶」に引きづられ、二人が出会い生活を共にして死別する物語に読んでしまった。この作品に対してこの読み方は勿体無いだろうね。
主語を隠され、レトリックや例え、なんかの技で何か面白いものを読んだ気にさせられる。騙されないぞ、何も書いてない!と思いながら抵抗しながら読み進んでも最後は丸め込まれてしまいました。なんなのだろう、屈しました。A.R.E。
#4 どんちゃん
物言わぬ動物を観察し、あれこれ投影し、気を揉み、ってだけでもなんか面白い。おそらく病死した水棲生物を食べられるって愛情ありますよね。
#5 物語の結末
構成は面白いが、物語の話はあんまり面白くない。もっと外の世界が見たい。
#6 想い出がいっぱい
語り手の先輩の性別は最初男のように演出されるが、最後には女であることが判明するという仕掛け。父親が娘の学芸会の動きに感動した想いを読者として発見する。この辺りはわかる。
参照用リンク: #date20231103-012719