第238期予選時の、#6ソーラーパワーアマネ((あ))への投票です(4票)。
「ルポか何かなのかな」と思って読み進めると、終盤で「あ、これ個人のブログ記事っぽい」と感じて一気に好きになった。ラストの一文で、それまで描かれていたAとBと書き手の三人の関係性、足跡、それぞれが今確かに生きている事実、がどっと押し寄せてきて(それこそ波みたいに)、私のなかに広がってじわじわ満たしていくのを感じ、何だこれは、となった。他では得難い読後感だった。
読み返してみると、「少し内輪の話をすると」とか、「なぜこういう話を書き出したのかというと」とか、書き手(作者さんではない)の温度が感じられる箇所がそこここにあり、ただただ唸らされる。
今期は素晴らしい作品揃いでどの作品に投票するか悩んだ。候補に挙がっていた作品についても感想を。
#7 ドラゴンのキキ
これはもう登場人物(人物?)の好みで。ドラゴンかわいい。荒っぽい言葉遣いで叡智を備えてるのずるい。ネガティブ思考の語り手との組み合わせもよい。ラストのプロポーズが説得力がありすぎて、こんなん惚れてしまうだろ、となった。
#9 転生
作者さんの、連鎖のなかにある親子や師弟関係の話が好き。関係性の内側に留まらず、世界のありようのひとつとして連鎖があるあたり。本作では「手のひらいっぱいの結晶」が「それ」「これ」と書かれた途端、ぼんやりした印象になってしまった点が残念だった。
#10 やみよ
スピリチュアル系というかカウンセリングというか、作者さんの手にかかるとうっかり騙されてしまうかもしれない、などと思いつつ読んだ。後半の転換は、見事手玉に取られた感がある。結末にその驚き以上のものがなかったのが難点。
参照用リンク: #date20220724-232817
何か分かりにくくて読みにくかったのですが、赤道直下の島の太陽光発電設置のために頑張っている旧知のために援助を依頼してる、ということですよね。語り手と漫画家の性別も関係も分からず、ほわっとした感じではありましたが、他の作品よりは良かった気もしました。
『ドラゴンのキキ』は、ドラゴンは長寿なのでしょうけど、30年かけてまで人間のことを知ろうとしなくても良いように思いました。子作りをするならもっと早めにどうぞ。
『ダンス・ステップ』は娘の成長を見守りながら、距離が離れていく空しさを味わっているのか、でも手を引かれているのに親でもないし、よく分かりませんでした。
『やみよ』は救いにも唆(そそのか)しにもならないことを駄弁っているだけに感じました。聞き手にはそれをはねのける生命力を期待します。
『あの国へ』は登場人物の関係が読者に分からないように混乱させる文章でしたが、その混乱が解決しなければ読みにくいばかりでしたね。設定は面白そうだっただけに残念です。
『誰かのアンモニア』は親子の対話に臭いを持ち込んだのは着眼点でもありますが、加齢臭は50代以降は 2-ノネナール、30〜40代はジアセチルによるもののようで、また耳の裏を洗うだけでかなり改善されることも知られています。アンモニアの発生が尿中に含まれる尿素が分解されることによるのは事実ですが、アンモニアそのものも尿中には含まれ、それはおじさんだけでなく、少年少女、美女に野獣、変わることはありません。いえ、今時の自動洗浄の便器ではそんなに臭いませんよ。空想と妄想でこね上げられた話に感じられてしまいました。いえ、主眼がそこにないのは分かるのですが…。
参照用リンク: #date20220722-102659
不思議と惹き込まれた作品。唐突に出てきた「島」がどこの国のどんな島かわからない一方で、太陽光発電の設置の描写が妙に細かかったりするのが面白かった。
参照用リンク: #date20220718-175649
てらいがなくてまっすぐで気持ちがいい。地に足がついた感じがする。普通の物語なら、漫画家になったBとAとの何かしらの葛藤や、太陽光発電に挑み続けるAとそこから降りた私との対比のような形で過度に感情をこめてしまいそうだけど、全くそんなところはなく、仕事をする人たちをとてもまっすぐ描いている点に好感が持てた。つまりこの話自体は漫画にはならないだろうなということ。だからこそ「読者からの反応がすご」かったという、ソーラーパワーアマネがどんな話だったのか、とても気になる。
参照用リンク: #date20220715-230719