第237期決勝時の、#4睡眠王(テックスロー)への投票です(4票)。
「睡魔」を文字どおり魔物としてとらえる遊びは、自分もやったことがあるのですが、ここで描かれる魔物の様は実に魅力的で、
しかも単純に眠りへと引きずり込むのではなく、主人公が苛まれているのは睡眠不足というのが、とても面白く思いました。
最後、医師が睡眠王に成り代わりましたが、前睡眠王と語り手との関係は謎のままで、その辺もとても興味深く読みました。
参照用リンク: #date20220708-222954
#1 訃報
落胆、期待、期待、期待、落胆、喜び、落胆、期待。のように気持ちの浮き沈みがリズミカルに繰り返されていて、死と楽しい企みのはざまのドラマを書けている。日本語的にこなれていないところがあったり(例えば、「林さん」という主語が繰り返し登場するなど文法規則に忠実すぎるところ)、せいこさんが中学の初恋の人の訃報を読んだ後の行動の素早さとか、その手紙の質問内容とかに違和感があり、そこが作品を作り物に見せていて少し冷めてしまうところがあり、好きなのに推薦しづらいと思う気持ちがあったことは認める。もう少し作品の強度が上がりそうな千字作品という印象。決勝の三作品はどれも結末に死が絡むが、その中では、一番後味の良い死であり、エンターテイメントとして優れていると感じた。cheerに満ちた死。
#10 ガベージコレクタ
ほのぼのとした物語の予感を裏切る後半の展開に驚き、世界の全容に納得する話といったところか?
電子システムの世界秩序の中で、ガベージコレクションを仕事とするCと、豹変する侵入ウイルスDがあって、侵入ウイルスが駆除されて一件落着となる。虫=バグ、くらいはどこでもやってるのだろうが、雲上=クラウド上、/=コードを書く際のコメント記号を台詞の記号に転用する方法は初めて見た。電子の世界の営みがこのように表現されているのを見るだけで楽しさがある。
「半透明サイコロ状の情報子」は想像しやすく、廃棄処理室での描写にも一役買っていてSF味の演出道具としてもいいと思う。その対になる、「ノイズまみれのオブジェクトの欠片」は意味はわかりやすいものの、形状が想像しづらく視認性が悪いため、読み流せず引っかかる。ヴィクトリアン調のメイド服、モップ、無数の牙が下向きに生えた巨大生物の上顎、などは質感まで想像しやすい。一方で、壁・廊下・ドアの材質、デザインなどが明記されておらず気になる。SFっぽい宇宙船っぽい構造物をなんとなく想像してしのいだ。漫画や映像ならば、この辺りに文字数を使わずに解決できるのだろうが。巨大生物の上顎のモチーフは何かあるのだろうか?調べたがわからなかった。
#4 睡眠王
的確な描写と、知的な日本語の運び方、物語の運び方、問題の投げ方。文章の強さに魅力を感じる。一方で謎解きが難解であって、そこに鼻持ちならなさを感じる。しかしこれが一番うまい。
参照用リンク: #date20220706-235126
#1 句読点や単語の選択に引っかかるか、独特な語りと受け入れられるかで評価が変わるかもしれない。物語自体に斬新さは感じられず、また独特な語りを選択する意図が読めなかったことから、私は前者の評価となった。ただなかなか味わい深いので、この語りにマッチする物語を読んでみたい。
#4 今期は(今期も?)他の方の鋭い読みに興奮し、唸らされた。なるほど順番なのかと。最初から王が決まっているよりも地獄じゃないか。そうして再読すると一層魅力が増している。深く読みこめる奥行きのある物語、それをユーモアを交えつつ語る力量に、票を投じる。
参照用リンク: #date20220703-230950
王の眠りを奴隷たちが支えるという、睡眠の物語化が面白い。
誰でも、良い睡眠を得るためには、心身の健康状態を維持するなどのバランスが必要で、この話に出てくる睡眠王だけの話ではないよな、と想像させられる。
一つ不満を言わせてもらうと、「奴隷たちは〜」にいきなり場面が変わるところが分かりにくい。
参照用リンク: #date20220702-170520