投票参照

第104期決勝時の、#19『エコーエコー』(吉川楡井)への投票です(2票)。

2011年6月5日 1時24分15秒

『密葬』と『エコーエコー』で迷ったけど、今回は『エコーエコー』で。

『密葬』は、日本の山奥の村の風習が描かれているのに、どこか古代エジプトっぽく感じられて面白かった。(恐らく、「屍体の保存」というミイラとの共通点と、黄金のマスクを連想したため。)
ただ、全体的にきれいにまとまりすぎている気がする。金色の屍体が千も並ぶ様子は荘厳かもしれないが、驚愕したり衝撃を受けたりするほどではなかった。蜜葬の生まれた背景、ぞっとするような謂れなんかが書かれていればまた違ったかもしれない。惜しい。

『エコーエコー』はカタカナが気になった。語り手の年齢を下げるためかなと思ったけれど、そうすると冒頭(「枢軸気温」あたり)が硬い気がする。第一段落の途中で急に幼くなるように感じた。
後半の、ほら貝から宇宙へ広がるイメージが素晴らしい。螺旋を描くような形状のほら貝の奥には、確かに宇宙が覗きそうだ。少女がほら貝に口を当てて囁く、という絵も美しくて好みだった。
宇宙のハテは自己と他者の境界で、部屋でひとりほら貝に口を当ててハテと交信する行為はつまり自らの精神の奥深くへ潜ることに他ならないのではないか。絶対の孤独を感じながら、真摯に自らの本質と向き合う行為ではないか。そんなことを思った。
静かな闇の中で一つ星が光っているような、心地よい読後感があった。

参照用リンク: #date20110605-012415

2011年6月4日 2時19分37秒

「『エコーエコー』」に一票。

「青の男」
良い瞬間を千字で切り取っていると思うし、その中で登場人物が物語をちゃんと進めているという印象を受けた。が、“読めば読むほど”というものを望む個人的嗜好からすると物足りない。となれば、やはり典型から抜け出し切れていないということか。

「蜜葬」
或る種の淫靡さを漂わせた、まさしく“怪奇”な世界観が、伊藤潤二を想起させる。それが故に、「黄金色の琥珀に塗り固められた屍体」というだけで十分なビジュアル的なインパクト(旨味)があるように感じ、序盤から中盤へのもたつきが惜しい。

「鼠と猫」
ちゃんとまとまった話、という印象。落語なんかと同系統なのでは、とまで思う。だがそんなに(落語的な意味で)巧くない。

「夕方、一人で留守番してたら」
「メリーさん」をパロディにするという行為自体がもはやどうしようもない域にあるものだと思っていたのだが、「面白い」と感じる人がいるのだからまだそうでもないのだろうか。或いは私とはもっと違う文脈で本作品を読んでいるのだろうか。わからない。

「『エコーエコー』」
さまざまなものが隠蔽される一方で、そうであるが故にそれ自体何かを暴露している。「放熱スモッグ」は何かを隠蔽し、だがその何かを「嘘」として暴露していく(無論、それを真実としてではなく)。
「ほら貝」も何かを隠蔽しつつ在る。主人公がそれに教えを乞う時、暴露の中に在る隠蔽をもまた知ることになる。「宇宙のハテ」と名付けられたその隠蔽だけが、主人公達の世界におけるあやふやな「幸せ」を保証してくれる唯一のものである。

(anonym_self)

参照用リンク: #date20110604-021937


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