後半です。
#17 東京駅に似ている
また猿の話が!
あたかも心温まる話の如く書かれているが、ふたりの残された男が死ぬまでの年月のことを想うとひどく悲しい。
クセのない文体でさらっと読めるが、たとえば「青彦だから青いマフラーを編む」といった変てこなエピソードが挿入されるのがフックとなってしっかりと読み応えがある。
#18 夜光虫の海
観念的すぎて状況がわからないが「これは観念小説です、雰囲気を感じ取ってください」と言われれば「はい」としか言いようがない。
『夜光虫』という単語がたくさん出てくる割には夜光虫どうでもいい。
ただひとつ『星の皮膚をたゆませている』という言い回しはなんだかかっこいい。
#19 ニューデイニューライフフォーミー
無表情で抑揚ないままに、ひどくなまなましく恐ろしい内容の話を淡々と述べる三十代前半の女性を想起させる文体だ。
「五年前から異世界で生活している」という話はおそらく比喩なのだろうけれど、何を比喩しているのか読み取れず、果たして読み取れるものなのかわからないが、きっとろくでもない話にちがいない。救いがない。というか、救いを求める文章ではない。
#20 幻想終末録『宵闇』
理解できなかったのでだれか解説してほしい。
#21 転校生
すごく嫌な気分になった。どうして小説を読んでこんな気分にならなきゃならないんだ。ひどい。こんなもの求めてない。
だれかを幸せな気分にさせるほうがはるかに難しいのだ。
#22 あたしたちにあしたはない
さきほどの嫌な気分から復活した。たすかった。といっても楽しい話ではない。
たくさんのあたしとたくさんの倉井君とたくさんの誰かたちが、深みのない殺し合いの連鎖。つまり、深みがないのが救いである。
なぜ深みがないのかというと、「たくさんの自分たち」が存在することでアイデンティティが拡散しているからなんだな、というこじつけもできる。
#23 ひかり
パターン入りました、といった感じである。冒頭からしてかっこよすぎる老人の台詞と奇妙な佇まいの対比がまさに。
サンダーマン知ったおれは夜の空気のさなかに右手伸ばして、詩人でも作家でも音楽家でも扇動家でもないし左手首に十字架もないことを知りつつサンダーマンおれもなれるかなとためす。かみなりはおちない。
#24 ロストフの虎狩り
虎狩りもティーガー戦もどちらも似たような状況なので対比させて書くのは簡単そうだと思ってしまった。要するに、『虎』を『戦車』に書き換えただけ、とも言えるということだ。
#25 戦場で
これもまたパターン入りました状態だ。書きたいことを書きまくっている。
だがしかし、「これしか書けない」と「これだけ書いてれば幸せ」というのは紙一重であるよな。
#26 愛と言霊
なにを書きたいんだかよくわからなかった。焦点がぼやけて見えた。メタ的な言い方をすれば、焦点をぼかしたいがための書き方であるようだった。
なんとなく意味がありげな描写を連ねるとこうなるのだが、これをつきつめると#25のようになるのではなかろうか。
#27 折れても二人
ほのぼのとした風を装ってはいるが、実はこのふたりの少女は生きることに絶望していて、「首吊りしたら死ぬ」という現実を見て見ぬふりをしながら、楽しいねーとか言いながら準備する裏側では、粛々と死に至るじぶんたちを冷静に俯瞰していて、ほんとうに死ぬつもりで、でも死ねなくて、新しいダッフルコート買ったけどやっぱりわたしたち生きることに絶望してるのよ、って話だと思って読むとせつない。
ことば通りの意味だと思って読めば、たのしい。