17 タイム・ワープ fengshuang 962
なにも起きなかったのか。
さいきんイギリス民話集というのを読んでいるんですけど、
この本わりと面白いですが、ここに収録されているような感じです。
民話には素朴な感じがあるし、なによりも、こういうのが人に愛されてきた
話なんだって部分で、物語の基礎って感じです。余計なものがあまりないし。
ただ、これをそのまま現代にもちこむと、現代の人はもう娯楽に満ち溢れている
世界で暮らしているので、ちょっと物足りないものです。
18 横断者 笹帽子 1000
ふしぎと魅力的なのはなんでなんだろうな。
文章がすなおで丁寧な感じがするからかな。
都市伝説聞いているときみたいに、なんだか無意識のそこで、
こういうことあるかも、と思えるちりちりした感じがある。
なんで俺と横断者はまわりから見えないのか疑問。
ただもう一味欲しいな、と思うところがあって、
それは毒なのか、かわいらしさなのか分からないけど。
さいごにコショウ入れ忘れた系。
19 桜の樹の上には 三浦 992
面白かったです。
「せかい」とか「鳴動」とか意味は把握しづらいんですが、
構成は単純にきれいだと思います。むだなダイアログがあるから、
「曾祖父、かんかんのうを踊る。」っていう主語動詞が生きてくる。
暗闇の中の鳴動、と目が潰れたから踊るってのが呼応してんですよね。
最初の塊は感覚的で、きれいな導入、
次の塊は状況説明的なところで、ひきこまれるよう、
無意味なダイアログで、このダイアログが二人の関係性を
ちょっとにじませてるのもいいのかもしれない、
で、最後にかんかんのうと。
闇の世界でもだえてる感じがするんですよね。
でもそれが暗い感じじゃなくて、気持ちよい感じ。
瞑想してるとこんな感じになるのかなと思いました。
かなりすごい出色の出来かと思うんですが。
かんかんのうについての俺の知識がすくないので、
そこをしっかりと味わうことができず、自分が残念でした。
20 猿の証明「2+2=5」 宇加谷 研一郎 1000
面白いよ〜。
段落間の反発がいい具合に働いてるのかな。
>彼は本物の猿だった。
>誰も不思議に思わなかったのか?
>思ったに違いない。
とか。
>2+2=5。
>「待って。5? 1多いじゃない」
とか。
あと証明できてない証明の後に天才ゼミの話とか。
冷蔵庫とかの言葉も意味が完全に感じられないし。
あと「黒い噂」とか「NASAの秘密計画に加わって」とかの
社会って訳分からないよねって感じの言葉もいいなあ。
ちょっとずれるんだが、
筋が面白いものは文章がつまらない、
文章が面白いもの筋がつまらない、
という話の中で、
筋が面白くて文章も面白いものは不条理なのが多い、
っていう印象が短編にはあるんだよね。
短いとやりやすいのか、というより、
不条理の長編は長いと読むのきついのかな。
「知性を内側に隠す淑女」は俺も気になりました。
「才気煥発なオテンバ娘」はいいかなと思います。
21 子犬のワルツ 長月夕子 997
素材感はあるんだけど、なんだか味がはっきりしなくて
もったいなあという感じでした。
素行わるいけど実はできる子っていうのを強調したいのか、
先生と生徒の恋が始まるのよ、みたいな展開を考えていられるのか。
23 餅を焼く わたなべ かおる 734
ものすごく散漫でこれはこれで散漫すぎてすごいくらいだ。
冒頭の「昔は、炭をおこして餅を焼いたものだ」というのが、
なんだか大仰で構えてしまいました。
どうして友達がいないんだろうかとか、
言いたいことぜんぶ言ったらどうなるとか、
そういうのばんばん小説上でやってしまったらいいのに。
あと個人的にもっと料理の、食物の、おいしい物の描写を
やってくれたら嬉しかったです。
24 未来の乗りかた わらがや たかひろ 1000
それからどうなるんだろう? という興味で読者を引っ張るのが
物語。三匹の子豚とか、どうも昔話には三人でてきて、
一人目二人目は失敗するんだけど三人目は成功する、という形式が
多いですが、これは、それからそれから、という興味を引っ張る
手法なんだろうなと思います。正直なところ、一人目二人目は、
たんに時間を延ばすためだけにある。
一方、どうしてだろうか? という興味で読者をひっぱるのが
小説。というか、この話は前にどこかで書いた気がする。
これはそういう意味では物語。どうして? という要求が読者側に
起こってくるはずなんだけど、それに答えてくれていないのん。
でも物語としては面白い部分があるし、もったいないなあ。
25 幸福を促進できる? 崎村 999
わあ、ぼくは恥かしがり屋なのでキスで赤面してしまいました。
構成がちょっと悪いかなと思います。
幽霊と会うってめずらしい話じゃないけど、基本を馬鹿にしてはいかん。
ただそれだけに、もうちょっと構成をこだわった
つくりにしないと陳腐になるんだと思う。
どうすればいいのかな。
うーん、いっそのこと、消えずにまだ幽霊がその部屋に
自縛霊しているっていうのも、ありがちかなあ。
むつかしい。
文章自体はすごく良くもないけど悪くもないという印象。
ずいぶん甘ったるい会話だけど、今の20代ってなんかこう、
わりとこんな感じなんだよなあ、と思いました。妙に甘いの。
あと、「……」の連発が気になりました。
記号は連発するとなんでも安っぽくなるから。
26 泥鰌 川野佑己 1000
タイトルが泥鰌じゃなくてどう考えてもウドンじゃないのか。
泥鰌がウドンとごっちゃになるという展開を期待したりした。
ウドンとか揺れる稲穂とか泥鰌とか川とかそういった類似が
言葉の中でたうちまわって生産に向かえば良かったのに。
しかしそもそも生産的っていうのが自分語すぎてよく分からない。
ただ俺の中では「うどん」っていっつも平仮名だったものが
この文章によってすっかり「ウドン」化されてしまい、
正直カタカナで「ウドン」は嫌なのだが、どうしようもなく、
その圧力は相変わらず。