※「⇒」の後が、私の感想です。
●掲示板
【第182期の感想/岩西 健治さん】
「バス」●
未来を感じさせる小説。好きです。失ったものを探すという行為は、本来、人間が抱えている本質であるように思いました。
現実では、記憶喪失から自分という証明を失ってしまった人がいて、彼らがその後、記憶を取り戻すかは分かりませんが、もしかすると、取り戻さない方が幸せ(巨大な心的ストレスから脳が記憶をシャットダウンしてしまい喪失が起こる。そのストレスの非が自分にあったり、誰かの死が要因であるなら知らないままの方がいいのではないのか)なこともあるとも考えられます。でも、知らないことを知りたいと思ってしまうのが人間であり、その先が不幸でも、やはり、わたしは知りたいと思うのであります。
⇒書き始めた当初は、とくに未来をイメージさせるようなことを書こうとは思っていなかったのですが、「ヤギと呼ばれている老人」のことを書いているときに、過去と未来をつなぐバスというイメージが浮かんできました。
記憶喪失に関しては、それがメインテーマというわけではなく、人間が失ってしまうものの象徴として「名前=記憶」を物語に置いてみた、ということになります。しかし「名前=記憶」は、失ったらそのままというわけではなく、いつか戻ってくることもあり、その部分にいろんな物語が潜んでいるのだと思います。記憶を取り戻す物語があればそうでない物語もあり、また不幸な結末もあれば幸福な結末もあるといった具合に。
●予選
2017年11月30日 23時59分59秒
迷いましたが、3 つ目はこれで。描写が生きていると思いました。
⇒描写している部分はあまりないと思うのですが、その点に注目してもらえて嬉しいです。
2017年11月26日 17時37分39秒
人生観がリアルなお伽話。読んでて心が温まりました。
⇒現実的な部分をそぎ落としたような書き方をしているので、お伽噺のように感じるのでしょう。寒い季節なので、心だけでも温まりたいものです。
●決勝
2017年12月4日 12時16分2秒
13.わかりやすさと深みを兼ね備えている作品。物語自体が比喩的・象徴的であり、伝えたい本質が最後に垣間見えるのも良かったです。
⇒物語はわかりやすく、でもその内容は深くというのは一つの理想ですね。
この物語での比喩・象徴は、人間が失うものの象徴としての「記憶」と、失ったものを取り戻す人生を象徴する「旅」ということになるでしょうか。そして最後は、絶望ではなく希望を未来に託したいという気持ちで書きました。
2017年12月3日 15時15分0秒
#13
決勝作品のなかで最も分かりやすく親切だった。物語と記号化、読者との距離のバランスがちょうどいいというか。ミームのことを思い出した。老人の語りにやや、作者さんの説教くささを感じる。
今期はバランスのよさからこちらに。
⇒登場人物のことを動物の名前で呼ぶというのは、確かに記号化ですね。「ミーム」は、人間の文化的進化を遺伝として考えるといった学問らしいですね。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%A0 この物語でいうと、「ヤギ」という名前が次の世代にコピーされながら、何かが進化していくことになるでしょうか。興味深い学問だと思います。
2017年12月2日 20時29分37秒
予選で入れた「バス」に決めた。
「シゾフレン」と「ディナ」はよくわからなかった。単純に楽しめばいいとは思うが「シゾフレン」の障壁は英語で私には理解できない部分が多かった。euRekaさんの言うように「ディナ」を繰り返しの面白さだと解釈しても、私には歴史的な神話をただ焼き直ししただけのように思えてしまった。「バス」には私の解釈の未来を感じた。
⇒「ディナ」については、あえて歴史的な神話の「焼き直し」のようなことをやったのではないかと思います。別の言い方をすれば、元ネタの色々な要素を切り貼りして別の物に再構成したということなのではないでしょうか。音楽でもリミックスという手法があって、元ネタをいじることで、また別の魅力を引き出すということがよく行われています。とはいえ、元ネタがどんなものなのかということが分からないので、あくまでも推測の話になりますが、そういう再構成の面白さもあるんじゃないかと思います。ただ、小説として見た場合、そういう手法の面白さだけでは物足りないということはあるかもしれませんが。