また変な題名で済みません。
前期に続き、感想を書いていて、どうしてもそういう感覚がつきまとっておりますため、題名で言わせていただきました次第です。
#1 葬式にて
思いついたら書きたい、という気持ちはわかる。私がそうだから。しかし、読み物とはこの程度のもので良かったのだろうかと、一読して思った。これで話になるのかという点は諦めて、せめて経をあげ終った坊主の最初の行動は必要だろう。起立して恭しく頭を下げる、主人公に焼香をさせる、笑いの効能についての説話を始めるなど、最後に読者に一撃を与える手段はあると思う。
それに比べれば些細なことだが、第一段の「正座をして、座っている」は過去形にすべきこと、「可笑しくて、可笑しくて」はすべて二回使うべきだろうこと、「くそ坊主」の変化のつけ方は必要ないのではないかということを指摘しておきたい。それから、堪えていた時間がありがちな三分や五分ではなくて七分だったことは、良いと思った。
#2 隻手の音を聴け
元々あった文章を並べ替えてそれでも何かしら表現ができているものになっているというのは、離れ業級の凄さだと思う。しかも並べ替えたものは「存在するものは、いつだって気紛れだ」ときちんと締められていて、元々のものは喪失感がにじみ出ているものになっている。
しかし私には、普通に読んでみたときには何だろうという感が否めなかった。
#3 京都
描きたいものは何ですか、と問いたい。せっかく長編すら書ける題材なのだから、省略しすぎないでもらいたいものである。私は、この作品からは、それらしい雰囲気しか読めなかった。
なぜそう思ったのかと問われれば、私は「心のわだかまりがすっと解けていくのを感じた」を挙げる。これは耐える恋だ。二人で京都に来ている今でも「お互いのことを思えば、推し量れば聞いてはいけなかった」という抑圧のある関係なのだ。だからわだかまりが解けることなど、ないはずではないだろうか。
#4 夜道
酷なことを言えば、読解不能。主人公と彼女の距離感はどんなものだろうか。
なぜそう思ったのかと問われれば、私は「嫌なんだね…僕といることが」と「僕がいることで、彼女を傷つけている」と「大切な人を自分の力で守れないと知った」の並列を挙げる。この三つは等しくないのに、等価な並べられ方をしている。特に最後は、どこからそうなるのか、という疑問が浮かび、浮いたまま終わってしまう。
#5 擬装☆少女 千字一時物語35
怖い話よりも薄ら寒い話を目指してみたのだが、夏だから怪談風にしたことを後悔している次第。
#6 ビューティフル・ネーム
題材が題材であるだけに、表示されている千文字だけで読むのは無理だろう。言いようによっては千字小説コンテストサイトに投稿するべき作品ではないとも言えるが、せっかくなので大幅に想像を継ぎ足して読みたい作品である。
その際、最も困難なのは、性転換手術ではないので生理があることはわかっていただろうということをどのようにして綾に忘れさせるかということだと、私は睨んでいる。
#7 幽霊
書きようのないこととも思うのだが、どうして三度目に薬を飲んだときに主人公は気絶したのだろうか、と思う。一粒余計に飲むと最後に残った幽霊が消えることになっているからだろうか。それから、「事あるごとに一喜一憂」とあるが、この能力で喜ぶことなどあるのだろうか。
#8 夏
気持ちはわからないでもないが、何の話だろうという以上の感想を持てずにいる。
事件性のない日常を描いた作品でも、これは、と思うこともあるのだが、この差はいったいどこにあるのだろうか。
#9 夏の日
ぬるっとした湿度で統一されていること、長い時間をかけて腐っていく様を描けていることは、良いことだと思う。
#10 オルガン
小説としての読み方がわからないとなると舞台として見れば良いのだろうか、と理由もなく思った。なぜ最後が洋子なのかわからないのだが、そうかと言って締めに必要のないものではないのだとも思う。
#11 あなたの性格がわるいのは母親のそだてかたが原因だったのだ
最初と最後の関連性が読めなかったのは私の読解力が足りないからだと思うのは、常連びいきと非難されるべきことなのだろうか。最後が本作の主題であると仮定すれば、だから、だから、ときちんと第二段落までさかのぼれる。それはきちんと作られていると言って良いことだろう。
話としては、ののしられた主人公が何をしたのか、最初のひと行動がほしいと私は思った。前期の『世界平和』と言い、私の癖なのかもしれない。
#12 約束
これも雰囲気だけ。主人公が最初にお弁当を作ってあげたかったのは誰か、投げっぱなしになっていると私は思う。それに、文都に食べさせてあげていることは説明なしでやって良い程度のことなのだろうか。さらに批判をすれば、台詞中の「言い返せないし」は心情であり言わせるべきではないと思ったこと、「やだよ、待ってる、戻ってくるんでしょう?」の部分の「待ってる」は早すぎると思ったこと、遺体と対面したときの文都の呼び方で漢字とひらがなを用いているがより感情の高まる後ろの方にひらがなを用いるべきであること、それから全体的にエクスクラメーションマークが多すぎることと句点の使用の有無が安定していないことを挙げておきたい。
千字で四場面を描けたことは、会話文は言外に雰囲気が描けるために文字数圧縮効果があるのだと感じた。
#13 林先生
何が怖いと言って、人間の皮をどこから調達してきたのだろうかということを挙げて良いだろうか。
「束脩」とか古来の礼とそのこころを教えてくれる人、私も会ってみたいと思う。酒は苦手だが、それだけ面白ければ会ってみたいものだ。それから、その話にビーフジャーキーで応える智恵も良い。
#14 作品
これからどうなるのかと思わせるのは仕様なのだろうが、方向性がまるでわからないのはそれで良いのだろうかと私は思う。「死を演じる技術は発展を続けているが、それで何を訴えるのか」など、見るべき言葉がいくつかある。しかしそれらがまとまっていないように思えたのは、これも私の読解力のせいなのだろうか。
ひとつどうかと思った表現は、「全てが虚無で覆われた映画の世界のようだ」。それまでは希望を持てないものを描いてはいたが、虚無を描いていたのではないため、合っていないと思う。
#15 八月の光
題名に驚いた。そして読んでみるとそんな気がするのは、先入観のせいだろう。いつもどおり、わからないのだ。
一読の感覚だけ言えば、珍しく人口密度が低そうだと思った。
夏なのにいつもどおり冷たい感想だな、これ。
得票は嬉しいことのはずなのですが、私の作品はそういう分類なのだろうか、ということを思い、複雑な気分でいます。
他に近況としては、題材にできそうな九月の行事が思いつきません。十月になれば、なんとかの秋、となるのでしょうが。それから、『京都』後日談的な二次創作も思いつきません。別段やらなければならないことでもないのでしょうが。
以下、珍しく今時期に改めて作品を読んで、他の方の感想などと合わせて新たに思ったことです。
#1 葬式にて
何度読んでも偽日記以外の何物でもない。
#2 隻手の音を聴け
番号順に戻した場合、第12文で突然に背景の描写から登場人物の言動に切り替わっているために主語がわかりにくいことと、第27文の「そして」が第26文との連結をおかしくしているのではないかということを思った。
#3 京都
「あまりの悲惨さ」と書いたことに疑問を持った。本作は主人公視点なので、これは客観的な見え方ではないはずである。客観的な見え方であったとすれば、「悲惨さ」は同僚たちにも明らかにわかるほどであったということとなり、それではあまりに悲劇のヒロイン過ぎる。
#4 夜道
この彼女、随分と無防備だと思う。この期に及んで初めて自分の家の場所を教えているのはどのような心境なのだろうか。あるいは主人公が彼女から嫌われていると思っていることが妄想に過ぎないのだろうか。
#5 擬装☆少女 千字一時物語35
戦場ガ原蛇足ノ助氏の指摘については、いつもの書き方から少し変えてストレスを与えようとしたつもりだったが、失敗だっただろうか。いつもならば「それの姿は聞いていた噂のとおりだった」と書いていただろう。
#6 ビューティフル・ネーム
男性的になりたいことと同性を好きになることと、どちらが先にあっただろうかということは、この種の話が好きな人しか考えないことなのだろうか。本作の綾の場合は、景を好きでいられる自分になる目的で男性的になりたかったのだと私は読んでおり、だから性同一性障害だとは思っていない。
#7 幽霊
改めて読んでみると、主人公を含めて主人公の家にいるすべての登場人物が不浄霊に見えた。鬱屈した主人公が殺した人たちで、最後には狂乱して自殺して、だから幽顕の区別がつかなかったのではないだろうか。
戦場ガ原蛇足ノ助氏の指摘については、もっともだと思う。
#8 夏
改めて読んでもまともな感想が書けないのだが、文庫本を持って学校に行ったあたりが文学的だと思った。
#9 夏の日
これもまたまともな感想が書けないのだが、今期のすべての幽霊話よりも後味が怖いのは凄いことだと思った。
#10 オルガン
以前、作品中の人物が語りかけている対象と読者の間に別の層が存在する作品があるという感想があったのだが、宇加谷氏の作品群にはそのような層が多重に存在しているのだと思う。あるいは重なっていると言うよりももっと言い表せない状態なのかもしれない。だから「作者の俺」と言っても他の登場人物とは別の層にいるだけなのだろう。それが「空想の諸君」などと言っているのだから、実に用意周到だ。
猿の立ち位置の読み方がますます難しくなってきた。
#11 あなたの性格がわるいのは母親のそだてかたが原因だったのだ
『夏の日』への戦場ガ原蛇足ノ助氏の「うまいこと人間のダメなところが書かれている」という感想を、本作にも転用したいと思う。私などはどうしてもそういうことで終始できないのだ(『35』は今のところ唯一の例外)。
ところで、十台男の十二歳上の主人公は中年と言わなければならないのだろうか。
#12 約束
今月は珍しくサイト『短編』を携帯電話でも閲覧したのだが、なるほど携帯電話で書いた作品だ。携帯電話で読みやすくできている。
内容としては、何度読んでも評価できない。読点の有無などといった程度の問題ではないと思う。
しかし、海坂氏の約束に関する感想は納得がいかない。主人公がこれまでの十年間文都のことを待ち続けていたのだから、文都もこれからもずっと約束を守ってくれて上で待っていてくれるだろうということではないのだろうか。しかしそうすると、この主人公は二度と恋をしないということなのだろうか。自分から他人を好きにならないとしても、他人から好きと告白されたら、どうするのだろうか。
#13 林先生
またしてもまともな感想ではないのだが、この林先生はどこから生まれてきたのだろうか。
#14 作品
この白い服の男の嗜好のために、主人公の世界は過去に戦争が多発したり現在のようなボス猿の地位を巡って騒いだりするような世界になったのだ。憎むべき男である。しかしこの男が戦争ものに飽きたと言っているところに従者が期待を口にしたのだから、主人公からそぎ落とされた盲点はもっと別の何かなのだろう。そこに希望は持てるだろうか。
#15 八月の光
「スタートライン。誰もいなくて。ゴール。何もなくて。」といった表現が、いつもよりわかりやすいような気がした。だからと言ってやはりいつもどおり読めないのだが。
これで投票のときに書くことがなくなってしまったかもしれないということに、書いてから気がつきました。