①駅・ホーム(夜)
中学校の制服姿の男女が並んで立っている。髪を三つ編みにしている蒼井優(14)
と、チョコミントのアイスを齧っている二宮和也(14)である。
二人の後ろにグリコ「セブンティーンアイス」の自販機がある。
優「またアイス?」
二宮「ああ」
優「寒くない?」
二宮「寒くない」
電車が入って来る。
②住宅街(夜)
優と二宮が一緒に歩いている。二宮は優の斜め後ろを歩いている。
二宮「告白された」
優「そう」
二宮「去年の交流戦で知り合ったんだけど……聞いてる?」
優「聞いてる」
二宮「塾でひさしぶりに会ってさ。なんか、話はずんじゃってさ。で、なんか、昨日、呼
び止められてさ……」
③進学塾・教室(夜)
優の回想。②の三日前。
優とは違う中学校の制服を来た相武紗季(14)が優に近寄って来る。
紗季「ねえ。蒼井さんって二宮君と仲良いの?」
優「別に」
紗季「でも、いつも一緒に帰ってるじゃん」
優「いつもじゃないけど」
紗季「ふーん。じゃ、別に仲良くないんだ?」
優「幼馴染みってだけだよ」
紗季「……」
④住宅街(夜)
②の直後。
優「……」
二宮「受験があるしな」
優「……」
不意に、二宮が優との距離をつめる。優ははっとして、反射的に首を引っ込める。
二宮が優のコートのポケットの中に、丸めたアイスの包装紙を押し込む。優はほっ
として、肘で二宮の前腕を打つ。
⑤公園
④の九年前。
手製のアンパンマンのマントを羽織った幼い二宮と、これといって何も持っていな
い幼い優がごっこ遊びをしている。逃げる優の斜め後ろから、二宮が優の三つ編
みを掴む。優は痛がって足を止める。
二宮「アーンパーンチ!」
優「バイバイキーン……ねー、もう交代してよー」
二宮「やだ」
優「じゃあドキンちゃんでいいから」
二宮「アーンパーンチ!」
優「やーだー!」
優が泣く。二宮は掴んでいた三つ編みから手を放す。
二宮「……わかったよ。交代してやるよ」
優「いいの?」
二宮「いいよ」
優「それ(マント)貸して」
二宮「やだ」
優「……アーンパーンチ!」
二宮が逃げ出し、優がそれを追いかける。
⑥小学校・中庭
⑤の五年後。
小学五年生の二宮が友達と鬼ごっこをしている。その近くで、小学五年生の優が
友達と縄跳びをしている。チャイムが鳴り、二人共校舎へ入ろうとする。目が合
う。が、優はすぐに目をそらす。二宮はそれを見て校舎へ入る。
優「今、二宮が見てたよ」
優の友達「え、やだ、キモーい」
優「……」
⑦駅・ホーム(夜)
⑥の四年後。
中学生になった優が電車を待っている。二宮がやって来て、自販機でチョコミン
トのアイスを買い、優の存在に気がつかないままその隣に並び、アイスを食べ始
める。優が先に二宮に気がつく。別のところに移ろうとするが、やめる。
優「ひさしぶり」
二宮「……おお。ひさしぶり」
優「塾?」
二宮「おお」
優「私も塾」
二宮「ふーん」
優「……寒くない?」
二宮「……寒くない」
⑧住宅街(夜)
④の直後。
優「じゃあね」
二宮「じゃあな」
歩き去る二宮。優が、丸まったアイスの包装紙をポケットから取り出して、二宮
が去った方へ投げつける。
⑨駅・ホーム(夜)
二宮が電車を待っている。その横へ三つ編みを解いた優がやって来て、並ぶ。二
宮は優に気がつかない。やがて気がつく。
二宮「……三つ編みやめたんだ」
優「なんとなく」
二宮「髪きれいだ」
優「ありがとう」
二宮の横顔を、優が見ている。
優「不倫相手くらいにはしてやってもいいか。将来」
二宮が優の方を振り向くが、優が何を言ったのかまではわかっていない。
電車が入って来る。
優「ねえ」
二宮「え?」
優「付き合えば。バレー部の子」
優が電車に乗り込む。遅れて二宮も乗り込む。
電車が発車する。
<了>