so farさんは私じゃないですよ。
どうぞよろしくお願いいたします。
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擬装☆天狗
昨日から人生が暗かった。右斜七三度大人の大股二歩地帯で中年の男女がひそめいた会話を交わしていた。
「某小説作者はスーパーの婦人服売場のチーフだった」
「まあ」
「つまりぼくにも可能性」
「まああ」
まるめったちりがみのような言葉の応酬。チーフとそのやや肥えた愛人のやりとりに眩暈をかんじながら私は客達があらした陳列棚にあらためて秩序をあたえる。
大学卒業後に社会人という責任付符牒に圧迫され脱力して時間労働者をえらび、そうだ私が人生を絶望するのは昨晩に高校の同級生に五年ぶりに再会した出来事から。
「パレートの二・八の法則があって」きらびやかなイヤリングをぶらさげた友人が言った。「あなたしくじる側の八割」
友人曰く森羅万象古今東西のスーパーはすべてオンライン販売業態にちかぢかきりかわり地上から実店舗は消失するらしい。まさか。そして私はこの江戸時代からつづく街道脇に位置するスーパーともども失職するのだという。そんな。
パレートとか分からずじまいだったが友人の自信あふるる言説にたしかに私の脳裡にしくじりという印象はうえられた。そして育った。失敗の木はすくすく枝葉をおいしげらせ私の脳天にかげりをつくり。
ジーンズのおりたたみ中に同僚に声をかけられた。
「暗い顔してるね」
「死にたい」
ふうん。彼は頬えんだ。彼は私の二歳年上のアルバイトだ。
ゆうぐれに仕事を終える。心の中で「終焉」と呼ぶ店の掃除夫に挨拶をして「初体験」の男から来たメールに返信して女友達の「事故」「宿題」とチープな食事をして帰宅し「疎遠」の猫の喉をなでる。眠った。
翌日の中年男女の会話。
「これが小説家の発想」
「すてき」
二歳年上の彼が女装をして接客していた。なぜなのなぜ倒錯するの。私は彼に訊ねた。
「天狗の末裔だから」
末尾に股間がと続くのかと危惧したが彼は天狗は七変化するからと答えた。ひらめいた。七変化は狐。
チーフの発案めいた奇想により二歳年上の彼は赤地の格子模様のスクールガールプリーツスカートをはためかせつつなぜなのなぜ天狗なの彼はオフホワイトポロシャツでいかづちの如くはたらいた。
私が中国から輸送されたダンボール箱を二メートル高の棚からとりおろそうという時に彼の腕が私の首筋をかすめた。
「男の仕事」
彼はてつだってくれたのだ。ほそい骨組の彼の顔を私はながめた。瞬間おびただしく風がふき頭上の木々の葉がさざめいた。ありえうる。