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21「犬」

・納得できない点

名前がややこしいと思った。ケルベロスという種名(?)があって、惣一郎惣三郎とでてくる。ベスにエリザにオルトロスとわけがわからなくなってくる。それで幼なじみの印象が残らなくなってしまう。

・参考にしたい点

頭が五つある犬が、まったくの抵抗なしに物語のなかに存在している。

「ケルベロスとオルトロスの雑種なの。すっごいでしょ」

こういう一文も、まったく空々しくひびかない。すごい。

22「雨の日」

・納得できない点

カポカポと、タンタンシャラシャラと、ザーザーと――こういった箇所がよけいに使われすぎていると思った。

・参考にしたい点

しかしながら、作者の文体実験のようでもあって、その心意気はおもしろいと思う。


23「坂のウエの景色」

・納得できない点

いい話だと思う。でも「坂のウエからみた景色を今も忘れない。一生忘れない。」といわれたって「へーーえ」と答えるしかないな、と思う。明るかった、ただ明るかったと言われても、読み手にはその明るさがわからない。「僕」の父さんの豆腐の味も私にはわからない。坂の景色も豆腐の味も作者だけが知っているようで私は不満だ。

・参考にしたい点

この話は「すごくいい」らしい景色も味も読者には味あわせてくれないが、「すごくいい」ものを紹介しようとしていることは伝わってきた。もう少し書きなれて、「僕」の語りに力量がつくのを待つのも、「短編」の楽しみだろうか。

24「白線 」

・納得できない点

「その直後に男は女に付き合わないかと誘った。」という部分で、やっぱりな、と思った。

やはり34歳の男は学生バイトの女を誘ってしまうのが残念である。「34歳の男は若い女に性欲を覚えるものである」という世間が考えそうなことがそのまま使われているのが残念なのだ。むしろ、この34歳男性は巨体で豚のようで脂ぎって、みるからにエロそうだと学生バイトにびびらせておいて、その実、彼が何もしてこないことに学生バイトが逆に感心を持つ、「この豚は清潔だわ!」という流れならよかった。

・参考にしたい点

そうは言っても、主人公の小説をめぐる箇所の飾られていない言葉がいいなと思った。小説は文章を飾るものでブログや日記は正直に書くもの、という認識があるのだとしたら、私はそれは逆であると思っている。好みの問題だが。

あと「学生演劇」をうまく伏線としていかしているな、と感心した。

25「虫満ちる地の夢」

・納得できない点

グロテスクな夢の話というのは、グロテスクの中にある美、みたいなのがない限りは読むのはきつい。

・参考にしたい点

「悪い夢だな。疲れてるんじゃないのか?」
というのを率直にいえるのは良いなあと思う。


26「ケイタイ貴族」

・納得できない点

「死と隣合わせの冬の登山をこよなく愛する僕は、登山家がよく口にする『そこに山があるから』などという美化された言葉がキライだ。」

とあるけれども「そこに山があるから」って、しつこいマスコミ相手に、なんとか山登りを美化しないように苦しんだ挙句のそっけないセリフだと思うので、「死と隣りあわせだから」のほうが美化されていると思う。

・参考にしたい点

この『クサカヒトシ』というのに意味があるんだろうか、とちょっとワクワクした。何か勢いがあるので。

27「蟻と作曲家」

・納得できない点

キリギリスの存在が後半無視されていることに、蟻の傲慢さをかんじる。蟻の「みんな僕を見てー!」と叫んでいるところをキリギリスはどう思っているだろうか。盲目の作曲家にしても、自分の曲が弾かれていることで涙をながす、というのは仕掛けがたりない気がする。曲がただ弾かれるということはそんなに光栄なことだろうか。

むしろ、かつては有名だったある盲目作曲家が華麗に舞台で演奏するキリギリスに曲を提供しようとするが「おいぼれじじい」と楽譜を捨てられた、という設定ではじめるのはどうか。

盲目作曲家が落ちこんでいると、へたくそなヴァイオリンが聴こえ、かけつけてみると、いつまでたっても注目をあびず軽蔑さえしていたアリが捨てられた楽譜をひろって弾いている。「おっさん、これええ曲やなわてにちょうだい」とアリが言って、二人は炉辺で乾杯しながらアリは演奏し、盲目作曲家が手拍子をする……というのが自分の好みだ。

・参考にしたい点

「労働者階級の僕と違っていいなー」という点がしみじみと心にのこった。こういう経験がある。

28「眼鏡」

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