#1 この街で一番の景色
何かの出来事を描いたというより、何気ない風景を切り取ったような話。そういう作品の方向性は悪くないと思うし、その意図はちゃんと伝わっていると思う。
しかし、登場人物同士の内輪のノリみたいなものを押し付けられているようで、そこがちょっとついて行けない。表現の仕方によっては、内輪のノリも面白くなるのかもしれないが、この作品では押しつけがましさを感じてしまう。
#2 猫の粒
100文字小説というのはこういうものかもしれないが、アイデアを書いただけという印象。読み手の想像力にゆだね過ぎだと思う。
あと、最後の「本物知らないけど」というのも、本当なんだろうかという気がして違和感がある。
#3 I was born
小説というより体験談(本当に体験したことかどうかは分からないが)に近い気がする。一応物語のような流れはあるけれど、基本的には体験したことを書いているだけで、それは小説とは少し違うと思う。例えば、長編小説の中に出てくる何かの体験談という設定ならば小説になるかもしれないし、そういう、物語の設定に何らかの工夫がないと小説にはならないのではないか。
#4 カンジャンケジャン
これは車の中でのやりとりなのだろうか。だとしたら「ホテル近くのコンビニにお互いの車を停めて」というのは何なのだろう。状況がよく分からない。
内容については、「カンジャンケジャン」というのがアクセントになっているが、その他はだらだらと二人のやり取りが描かれているだけなので、その雰囲気を楽しめということなのだろうか。
#5 ノイズ
耳鳴りを医師が吸い取るというアイデアは面白いと思ったし、音の意味を語る部分も興味を引かれた。しかし、前半の耳鳴りの説明が少し退屈だったし、最後の展開もよく分からなかった。なので全体的に見ると完成度がいまいちかなと思う。
あと、作品の評価とは関係ないが、これを読んだあとに耳鳴りが一日気になってしまった。普段は気にならないのに、気にした途端にその存在が現れてくるという、不思議な存在でもあるなと思った。
#6 思い出
兄は妹が死んだと勝手に思い込んでいて、妹の幽霊まで勝手に見て、挙句の果てに兄が、死んだ妹(兄が勝手にそう思い込んでいる)の元へ行くために兄自身が自殺するという話か。話のアイデア自体は面白いと思うが、書き方が雑で分かりにくいところがある。それに兄の名前も途中で「智」から「悟」に変わっている。
#7 巨大なおじさん
(予選の感想と同じです)
何かを交換することがテーマになっていて、それが上手くいったときの心地よさが描かれている。
途中の「巨大なおじさん」の話がわかりづらい気がしたが、全体的にみるとテーマを上手く表現できていると思う。
#8 空っぽの部屋
実は主人公は幽霊でしたという、オチでハッとさせるようなアイデア勝負の作品。そのアイデア自体はいいとしても、会話の部分が単調で取り留めがない感じなので、飽きてしまう。それに、オチでハッとさせるアイデアが前のめりになりすぎていて、読んでいるとそのアイデアを押し付けられているような気がしてしまう。
#9 灰かぶり
主人公が正午十二時に待ち合わせをしているということと、途中でシンデレラの話らしきものが挿入されたということは分かった。しかし色んなことがあやふやで、よく分からない話である。あるいは、そういうあやふやなこと自体を表現したかったということかもしれないが、ちゃんと伝わる部分が少ないなと思う。自分の表現を深めることも重要だけど、いかにして伝えるかということも同じぐらい重要。
#10 祈り
悲しみが痛みとして現れて、その痛みが幻想を見せているといった内容か。その発想や流れは悪くないと思うが、書き方が荒っぽくて完成度はいまいちかなと思う。もっと伝わるように書くべきだ。
#11 鉄分いっぱいもりもりプルーン
(予選の感想と同じです)
ここに出てくる「考えない人」というのは、本当に考えていないのかなという疑問(考え方が違う、あるいは経験不足なだけもしれない)はある。しかし、他者とのズレやそのことについての考察のようなものが面白く描かれていると思う。
それに作品としての完成度も高い。
#13 イドの蘇生
(予選の感想と同じです)
同じ記憶(情報)を持つ自分が複数存在する、アイデンティティのクローンということか。SFには詳しくないけど、ありそうでない話かもしれない。なので、もっとその意味を深く掘り下げるような内容にして欲しかったなと思う。