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本文: 〉_ノ乙(、ン、)<別視点 〉 〉 〉 〉 夜食はコンビ二のお弁当。私は半透明の袋を指に引っかけて、けれど会社には真っ直ぐ戻らず寄り道をする。細い路地に入ってしばらく進むと、突き当たりに駄菓子屋がある。人のよさそうなおばあちゃんが、今日は丸椅子に座って居眠りをしていた。 〉 軽く気晴らしをしたいときの秘密の場所だ。普通に考えると、こんなオフィス街に駄菓子屋があるのも、そんな店が午後八時過ぎまで開いているのも不思議なことだった。私と同じように気晴らしをしたい会社員が利用するのかなと思う。一瞬だけでも、仕事を忘れることのできる場所として。 〉 店の中を見渡していると、派手な色彩が目の端に引っかかった。私は自然と立ち止まり、あらためてそれを見つめる。 〉 花火だった。袋詰めの花火が壁際のフックに吊るされている。つい先日、近所の子供が大喜びで花火を楽しんでいたのを思い出した。わずかな逡巡のあと、私は苦笑に近いものを浮かべ、それをフックから外した。 〉 〉 八時に終わるはずの仕事が、十時を過ぎても終わらないのはよくあることだ。仕事を管理する上司が今日は出張なこともあって、営業は遠慮なく無理を言ってくる。きりのいいところまで仕上げて伸びをしたときには、すでに十一時を回っていた。オフィスにはもう私しかいない。 〉 毎日同じように残業していたはずの先輩は、昨日から休んでいる。今日は上司が出張。結婚指輪をしている上司と、していない先輩。妙な雰囲気があった男と女。ふとよぎったいやらしい想像には、気づかない振りをする。 〉 花火を持ってオフィスを出て、管理室に一声かけてから屋上に上がった。金網越しに見える向かいのビル、窓からは普段どおりの明かりが漏れている。地上を走る車を見下ろし、一息ついてから花火を楽しむ。しゅうぅっと白い火が弾け、屋上のコンクリートを明るく焦がす。 〉 『祇園祭』という言葉を思い出したのは、花火からの連想もあるのだろう。先輩はよく、その京都のお祭りについて話していた。詳しくは覚えていないけれど、確か今日、二十四日も何かの行事があると言っていた気がする。 〉「京都かぁ」 〉 呟きと共にため息が漏れた。一人の花火。二人の旅行。これくらいは許されるかなと、手に持った花火を京都の方角に向けた。 〉 身を焦がす人達と、そうしたものとは無縁で生きてきた自分。胸に宿ったほの暗い感情が、花火のようにほんのひとときで消えてくれることを願い、私は小さな笑みを口元にのせた。 〉 〉 〉
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