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11「結して開す」

・納得できない点

 文章的に納得できないところはまったくなし。それどころか見習わなければならないほどの名文であると思う。コンテストの優勝候補間違いなしだ。

……しかし、それゆえに「納得できない」。私はこの完成度の高さより、むしろ「無限大はどこまでも」を個人的に好む。

この話が少年と老人を中心に東西南北にそれぞれ位置する人物たちの群像劇であるという構成やそれぞれのエピソードを無駄をそぎおとした字数で描きつくしている点などなど、あまりに研ぎ澄まされている。切れ味が鋭すぎていて、それは……少し厭味にうつる。カジュアルなレストランに全身ブランド物で着飾ってきているような印象だ。しかし、そのブランドの着こなしが完璧なので、センスが悪いわけではない、そういう点で不満だ。

・参考にしたい点

 「納得できない点」は、そのまま「参考にしたい点」ともなる。この話に登場する人物たちが陽光でも暗黒でもなく、夕焼け色の哀愁を漂わせているところがいいなと思う。

はっきりいって、技術だけでいえば短編の過去作品すべてを超えているのではないだろうか。知性を誇示してくるようにみえるのが惜しまれる。


12「擬装☆少女 千字一時物語40」

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13「雷」

・納得できない点

「悲しいときは突然現れる事もあることを学んだ」

この物語は、後半のこの一文に集約されている。なので「母の死」というテーマの随筆であれば、文句のつけようがないけれども、小説であるとすると、「母の死→哀しみは突然→家族は大事」という流れにリズムがないように思える。意見が優等生的でありすぎる。本当に悲しいことはもっと隠して、ひっそりと描かなければいけない。

・参考にしたい点

「妻や子供達に恥ずかしながらもなかなか言えない気持ち」

という一文が素朴であっても力強いなあと思った。この作品はこの一文が根となって書き出されたのではないだろうか。


14「ゆめ」

・納得できない点

ずっと平仮名まじりのユルユルの文体できていて「僕は彼を値踏みする。」の箇所が妙に浮いている。この一文が重要なんだろうと思うが、私はここがなんとなく納得できない。遊園地で迷子になって座り込んだ主人公に興味をもてない。

・参考にしたい点

緩やかな文体に興味を持つ。最後まで読まされてしまったから。

15「大森ヨシユキの恋」

・納得できない点

「さらに“キモい”笑顔を全開にして」
とあるけれども、社内ではイケメンで通っているのだったら、この「キモい」は「僕」の主観となる。そうすると、「いいラブホテル・・」のセリフがいきてこない。

・参考にしたい点

「休んでばかりいる同僚のひとみちゃんの愚痴」「受領伝票を忘れたまま」の箇所にリアリティがある。ブログとして読むと面白いだろう。

16「夢の中」

・納得できない点

不条理な夢、というのは多いのでいささか読み飽きた気がしている。名の知れた作家たちもよく書いている。個人的だが先日もレイモンド・カーヴァーの短編で読んだし、小林某という作家の「電話男」という小説もこんな話だった。この話から夢や電話といった条件をなくして再構成したらもっと独自性がでると思う。

・参考にしたい点

どこがいい、というより、文章の流れが自然で、なにか冒険が始まるようでワクワクする。こうしたハードボイルドな雰囲気を自然にだせることは今後、この作家の武器となるだろうと思った。「そのまま動くなよ。また、夢で会おうぜ…」とか。夢で会おうぜ…の一文をつけたすところはありそうで、なかなかない。

17「遠い彼女」

・納得できない点

好きな女は現実ではなくDVDの世界の女だ、というラストの一文をひっぱりすぎている。とくに前半部分の答えようか答えまいかと悩む部分が長い。

・参考にしたい点

「好きな子って、いる?」と唐突に話しかける同級生の存在感にとても興味をおぼえる。彼はこの物語ではこの発言のほかに「何? 誰? うちの学年か?」くらいしか喋っていないのに。不思議だ。

18「FUSE」

・納得できない点

「布施」なのか「FUSE」なのか、という問いのたてかたは好きではない。なぜなら文字があって意味がうまれるのではなく意味から文字はうまれているからだ。だから文字をとりだして意味をあてはめようとする主人公の心の動きはリンゴをみて「なぜアカなんだ、ミドリじゃわるいか」と突っかかるようなものだと個人的に思っている。アカもミドリも記号にすぎない。りんごの色はアカとよばれようがミドリとよばれようが、本質は変わらない。

それに、ここまで「ふせ」にこだわるのであれば、「ふせ」を文字ではなく行動に絡める結末へ持っていってもいいのではとおもった。

『目をとじ耳をふさぎ、おれは走り出そうとしていた。すると何かにぶつかった。盲人がおれに空き缶を差し出している。無視したがふりむくと、気の抜けた横顔をした群衆のひとりが500円玉を投げ入れていた。ああ!おれの頭を支配していた「布施」と「FUSE」が溶けていく! おれは盲人の前に戻り、財布の1000円札3枚を空き缶にねじこんで、くそおくそお、とわめいた。群衆のひとりは唖然とし、盲人は微笑んでいた。ふと、さっきの駅員もおれを笑っているのではないかと思った』

(↑刺戟されたので書いてみた。拙い例で申し訳ない)

・参考にしたい点

物語のなかで主人公が世界の事象を自分の言葉で考えようとしていることが貴重だと思った。この作品では私には言葉遊びの域からでていないと思ったけれども、いずれその段階を終えたら、この作者にしか描けない世界観というものが生れるだろう。自分で考えているから。

19「ホテルオンザヒル」

・納得できない点

「誰かが居るのかもしれない」というあたりから、話の展開がはやすぎるように思えた。前半にホテルの描写に字数をとっているので、そのままホテルそのものを描けばいいのにと思った。父の最期、が入ってくると、展開がありふれたものとなる。

・参考にしたい点

ホテルの描写がよかった。「水道水がまだ通っていることを見つけた」あたりなど。遊び場としてこういうホテルがあれば楽しそうだ。


20「レインコート、ゴオゴオ!」

・納得できない点

いろいろと省略が多い話である。この主人公が何者なのか冒頭を読んでも伝わらない。一度最後まで読み終えて、再度読み直してみて、ああマッサージ屋か、とわかる。ひねくれた仕組みだ。

この作者に対する信頼がある読者ならば楽しめるかもしれないが、そうではない読み手には疲れる作品だろう。

・参考にしたい点

納得できない点が参考にしたい点となる矛盾は読書にはしばしば起りうる。わかる人にわかってもらえればいい、という姿勢は嫌いではない。

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