仮掲示板

Re:36+1/2 - 最近、忘れていることがあるんだ

改変作を書いてもらえるだけの価値はあったのかなと喜んだのだが違っていたので、やや落ちこんでいる。それでも、あと三ヶ月は続ける(その後に止めるか続けるかは未定)。
題名には、最近、と書いたが、実際は連番が二桁になってからずっと、うっすらとそんな気がしていて、それは真正面から描こうとすることだったのかもしれない。やっていないことがわかっていることもあって、それは過去に評価されたことではないのだが、十二月までにできればと思っている。
連番を37としなかったことから、so far氏はずっと読んでくれている方だと推察できる(来期投稿作は37なので、被さる危険性はあった)。そのことと、書いていただいたことに、感謝を捧げる。

まだ終われない、Re*2:36+1/2

 このままでなるものか、と思ってみたのですが、やる前からわかっていたとおり、とても敵うものではありません。何が、と言うと、『36+1/2』では、女装少年の男性の一面、というはっきりした構成になっているのですが、どうもそうできなくて、キャラが定められなかったのです。ふたつの台詞を書いた時点でこれではただ同じようなものを書くだけだと思っていたのに、なぜか決着は違う方向になっていて、いったいどうしたことかと自分でも思っております。場面数が減っているのに、という問題は、以前からのqbc指摘(何回かあったはずだが、思い出したのは二月の頃)が当てはまるかと思います。
 それで、書いてみたのはコレ。

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擬装☆少女 千字一時物語36.5

 あの佐藤伊織とバイト先が同じであることを私が知ったのは、バイトを始めてから三ヶ月も経ってからだった。駅ビルの婦人服売り場で、彼が接客、私は陳列だったのだ。友人にそう言うと、わからなかったのか、と驚かれた。常に派手な雰囲気の男女に囲まれている彼との接点など私にはなかったのだから仕方がない、と言ってはいけないだろうか。あれほど有名なのに私がわからなかった理由、それは彼の特異な趣味、完璧なまでの女装だった。
 素材が良いのは私も十分に知っていたが、着こなし、メイク、姿勢、どれをとっても並の女性では足元にも及ばないと言う。例えば同じタイツでも、彼が穿けばきれいな足が引き締まって見えるのだが、私が穿くとプロレスラーのようだと言われてしまう始末だ。そう言えば採用面接のとき、急に人手が必要になったと聞いた。こんな私でも簡単に採用してもらえたのは、きっとそういう事情があったのに違いない。彼は常に若い女性に囲まれ、私はその人数に比例した汗を流していた。
 九月最後の日曜日の朝、セール品の搬入のため、全員が二時間早く出勤していた。レジの裏側の置き場からだけでなく、階下の倉庫からも搬入しなければならなかった。あと何回台車を往復させれば良いのだろう。流れる汗を拭うことさえおっくうだった。倉庫に台車を入れ、段ボールを乗せようとする。しかし段ボールに手を掛けた腕が持ち上がらない。もう駄目、小休止しよう、そう思ったとき、硬いヒールの音が近づいてきた。そっち持って、と言う涼やかな声に、私は反射的に段ボールを持ち上げた。信じられないほど軽かった。黒のスーツとタイトスカートと、まだ暑いのにタイツを穿かされているのは接客担当だろう。その名札に、佐藤伊織とあった。あまりに突然の遭遇に驚いた私に、気の利いたことなど言えるはずもなかった。二人はそのまま一組で、会話もなく搬入を終わらせた。
「こんなに手足太いのに全然力なんてなくて、役に立たない肉だよね」
 気まずいところを笑ってごまかそうとしたのだが、彼は笑ってくれなかった。馬鹿にされているのだろうか。
「鈴木さんは女の子なんだから、力はなくて当然でしょ」
 せっかく女の子なんだから、そういう言い方、良くないよ。至極真面目な顔をして彼はそう言った。それから、メイクを直さないといけないから、と化粧室に向かった。歩く姿には人柄が表れると言う。私も彼のファンになろうと決めた。

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 題名を分数にしていたのは、二月の経緯からこれを予見していたのに違いない。

Re:まだ終われない、Re*2:36+1/2

おどろくほど推敲前/推敲後のような内容だったので(もちろん黒田さんの作品が推敲前)、so farさんの作品と比べてどこがどうダメなのかダメ出ししてみました。

黒田版
『バイト先が同じであることを私が知ったのは、バイトを始めてから三ヶ月も経ってからだった』
→『バイト』という単語が文中で2回も出てきてかっこわるい
so far版
『バイト先が同じであることを知ったのは、働き始めて3ヶ月も経った頃だった』
→すっきり。無駄な主語である『私が』も省かれている。


黒田版
『駅ビルの婦人服売り場で、彼が接客、私は陳列だった』
→いくら接客と陳列と言えど、同じ店舗ではたらいていれば面識どころか名前を教えあうくらいの自己紹介はありそうだが。
so far版
『同じといってもテナント店が密集する駅ビル内のことだから、当然と言えばそうだが』
→主人公の売り場は鮮魚。佐藤伊織は婦人服だから、接点がなくて当然と言える。売り場自体、離れた場所にありそうだ。


黒田版
そもそも、主人公がどういうアレで佐藤伊織のことを知っているのか不明。
so far版
『佐藤伊織は同じクラスだが』
→納得しました。


黒田版
『そう言えば採用面接のとき、急に人手が必要になったと聞いた。こんな私でも簡単に採用してもらえたのは、きっとそういう事情があったのに違いない。』
→佐藤伊織の女装が評判となり、そのおかげで売り上げがあがった、という前提がなければ、『急に人手が必要になった』というのは何の意味もない情報である。『彼は常に若い女性に囲まれ』というのがもしかすると「佐藤伊織のおかげで女性客が増えた」という描写なのかもしれないが、だったらそう書けよと言いたい。『常に〜に囲まれ』という書き方はこれで二回目だということにも気づいておきたい。
so far版
『女子の多くが彼から、新作のマスカラやマニュキュア、流行のスカートまで目を輝かせながら情報収集したがる理由が分かった。彼を雇ったお店も冒険だったろうが、先見の明だ。売り上げは右肩上がりらしい。』
→読者が知るべき情報がすべて簡潔に書いてある。


佐藤伊織のキャラクターについて
黒田版
『常に派手な男女に囲まれている』男子(下心)にも女子(情報収集)にも人気。『黒のスーツとタイトスカートと、まだ暑いのにタイツ』婦人服売り場の接客が全身スーツ?フォーマル系の店なのか?『せっかく女の子なんだから』女の子に対する羨望?『メイクを直さないといけないから』暑いのにそんな格好してたら汗かくからね。『歩く姿には人柄が表れる』歩く姿はどこに描いてあるのか?
so far版
『大抵派手な雰囲気の女子に囲まれていた』女子に人気はあるが男子は近寄りがたい。『黒い長めのニットにミニスカート』カジュアル。『巻き髪を肩で揺らしながら』外見+動き。台詞から超然とした印象を受ける。メイクなんてなおさない。完璧。


また、全体的に黒田さんは湿って冗長な、qbじゃなかったso farさんは乾いて端的な文体でした。まあ、これは好みの問題といえばそうですが。


みんなもふたつの文章を比較して勉強しよう!

Re*2:まだ終われない、Re*2:36+1/2

so farさんは私じゃないですよ。
どうぞよろしくお願いいたします。

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 擬装☆天狗

 昨日から人生が暗かった。右斜七三度大人の大股二歩地帯で中年の男女がひそめいた会話を交わしていた。
「某小説作者はスーパーの婦人服売場のチーフだった」
「まあ」
「つまりぼくにも可能性」
「まああ」
 まるめったちりがみのような言葉の応酬。チーフとそのやや肥えた愛人のやりとりに眩暈をかんじながら私は客達があらした陳列棚にあらためて秩序をあたえる。
 大学卒業後に社会人という責任付符牒に圧迫され脱力して時間労働者をえらび、そうだ私が人生を絶望するのは昨晩に高校の同級生に五年ぶりに再会した出来事から。
「パレートの二・八の法則があって」きらびやかなイヤリングをぶらさげた友人が言った。「あなたしくじる側の八割」
 友人曰く森羅万象古今東西のスーパーはすべてオンライン販売業態にちかぢかきりかわり地上から実店舗は消失するらしい。まさか。そして私はこの江戸時代からつづく街道脇に位置するスーパーともども失職するのだという。そんな。
 パレートとか分からずじまいだったが友人の自信あふるる言説にたしかに私の脳裡にしくじりという印象はうえられた。そして育った。失敗の木はすくすく枝葉をおいしげらせ私の脳天にかげりをつくり。
 ジーンズのおりたたみ中に同僚に声をかけられた。
「暗い顔してるね」
「死にたい」
 ふうん。彼は頬えんだ。彼は私の二歳年上のアルバイトだ。
 ゆうぐれに仕事を終える。心の中で「終焉」と呼ぶ店の掃除夫に挨拶をして「初体験」の男から来たメールに返信して女友達の「事故」「宿題」とチープな食事をして帰宅し「疎遠」の猫の喉をなでる。眠った。
 翌日の中年男女の会話。
「これが小説家の発想」
「すてき」
 二歳年上の彼が女装をして接客していた。なぜなのなぜ倒錯するの。私は彼に訊ねた。
「天狗の末裔だから」
 末尾に股間がと続くのかと危惧したが彼は天狗は七変化するからと答えた。ひらめいた。七変化は狐。
 チーフの発案めいた奇想により二歳年上の彼は赤地の格子模様のスクールガールプリーツスカートをはためかせつつなぜなのなぜ天狗なの彼はオフホワイトポロシャツでいかづちの如くはたらいた。
 私が中国から輸送されたダンボール箱を二メートル高の棚からとりおろそうという時に彼の腕が私の首筋をかすめた。
「男の仕事」
 彼はてつだってくれたのだ。ほそい骨組の彼の顔を私はながめた。瞬間おびただしく風がふき頭上の木々の葉がさざめいた。ありえうる。

まだ終われない、Re*5:36+1/2

 今度は何を意識してということは書いているうちにか失われてしまい、なぜ何のために書いているのかということさえ忘れてしまったような気がする。それでも、自分の気持ちがどうあろうと今が最大の機会なのだ、とそれだけを思って書き、出す。

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擬装☆少女 千字一時物語36.6

 あの雑誌の読者モデルは実は男だったという噂を先触れに、噂の人、佐藤伊織が駅前通りに現れた。私の勤めるコスメショップの筋向かいにある女の子向けの洋服屋でバイトを始めたのだ。雑誌で絶賛されていたセンスの高さは本物で、自らのルックスもさることながらお客様への見立ても上手く、店の評判はたちまち上がった。それは私にとっても、噂で聞き、筋向かいから目で見るだけのものではなかった。彼の見立ては洋服に限るものではなく、ブーツやコスメ、果てはメガネにまで至り、洋服屋で勧めを受けた女の子たちがそれらの店に流れてくるのだ。実際、コスメショップも他の店も売り上げが伸びていると言う。もしもウチが彼を獲っていたら、とたまに店長が呟く。しかし私は彼の押しの強い印象に、少し敬遠を抱いていた。
 彼はときどきコスメショップにも、他の店にも姿を見せる。主に新作のチェックのためらしい。彼の流してくれるお客様は迷わず何かを買ってくれるのだが、彼自身はものすごく迷い、試し、人に聞き、聞かれ、結局何も買わずに帰ってしまうこともある。そういうところは普通の女の子だ。その彼がいつの間にか店内にいた。商品搬入をしていた私は、手を止めて型どおりの挨拶だけをした。今日の彼はまだ暑いだろうにニット帽を被り、無地のTシャツと多色柄チェックのロングシャツを重ねて、七分丈のジーンズにシンプルなブーツを合わせていた。派手とは違うのだが、わずかに目を留めただけで感じられる誰もが認めざるを得ないセンスが、彼には確かにある。ブーツの足音は意外にも私に近づいてきて、段ボール箱を持ち上げようとしゃがんでいた真正面から、そっち持って、と声が掛けられた。慌てて持ち上げると、さっきまでの苦労が嘘のように軽かった。空きが目立ってきていた新作コーナーは瞬く間に補充された。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
 その笑顔に何とはなしに居たたまれなくなって、私は笑いに紛らわせようとした。
「こんなに手足太いのにさ、全然力なんかなくて。見掛け倒しだよね、あははは」
 しかしそれは失敗だったらしく、彼は笑ってくれなかった。馬鹿にされてしまったか。
「女の子だから、力なくて当然でしょ」
 当たり前のことを言うように彼が言ったことが意外で、余計に居たたまれなくなった私は挨拶もせずに仕事に戻ってしまった。後ろから聞こえてきた彼を見つけてはしゃぎだした声が、じゃまだった。

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 憎い、憎い、『36+1/2』が憎い。

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