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 のい氏の作品は主題×妄想でできているのだと思います。その主題は私の嫌いなものではなく、妄想も悪いことではないと思うばかりか『擬装☆少女 千字一時物語』はそういう手法で描くべきではないかとも思うのですが、組み合わせが間違っているように思えます。
 そう思いましたため、妄想部分を取り除きました。以前のときもそうだったような気がします。結果、つまらなくなったかもしれません。

―――

天使

「えっと、誰さんかな?」
 僕の家の玄関先に突然やってきた彼女は、もう十二月になるというのに白のワンピースしか着ていなかった。
「僕、君を知らないんだけど……」
 しかし彼女は僕の言っていることがわかっていないかのように、僕を見上げて首を傾げただけだ。
「とりあえず、入る?」
 僕は寒くて寒くて仕方がなくて、脇へ避けて彼女を招いてみると、彼女は無言のまま玄関へと上がった。言っていることはわかっていたんだ。
 コーヒーをいれて渡してあげたのだが、彼女はカップに口をつけただけで顔をしかめてしまった。苦かったかな。クリームを入れてあげると今度は気に入ってくれたらしく、カップをなめるように少しずつ飲んでくれた。ほっとした僕もコーヒーを一口すすった。ようやく冷えた体が少しは温まった。おっと、のんびりしている場合じゃない。
「名前と住所、教えてくれるかな? それ飲んだら一緒に帰ろうね」
 途端に彼女はムスッとして僕から顔をそむけてしまった。弱ったな、今日はこれからバイトの予定なのに。僕がひとり思案している間も彼女は出て行く気配もないし、心を開いてくれる様子もない。
「僕、バイト行かなきゃいけないから、ここで待ってて」
 バイトの間だけ彼女にはここにいてもらおうと諦めた僕は、顔を向けてくれない彼女にできるだけ優しく声をかけて、玄関へと一歩を踏み出そうとした。
「嫌」
 突然彼女が僕の服の裾をつかんだ。何なんだろう、この子は。でもこんな小さい子を一人にしてしまっては不安だろうと思い直した僕は、出かかった言葉を飲みこんだ。
「わかった。行かないよ」
 僕がそう言うとようやく彼女は手を放してくれた。今日は休むと連絡しよう、そう思って電話機に手を伸ばしたとき、突然電話機が鳴り出した。母さんだった。
「お父さんがね、今、死んじゃったのよ……」
 それから母さんはずっと何かを言っていたのだが、僕の耳にはもう届いていなかった。嘘だと思った。そう誰かに言ってほしかった。そうしてほしくて振り返ると、さっきまでいたはずの彼女はどこにもいなかった。呼ぼうとしたが、呼ぶための名前を僕は知らなかった。
 代わりに、カップの脇に紙切れがひとつだけあった。
『お前は生きろ。死ぬのは俺の歳を越えてからにしろ』
 父さんの字、久しぶりに見たよ。短い言葉、無口な父さんらしいよ。もしかして彼女は、と窓の外を見ると、いつの間にか粉雪が静かに降り始めていた。

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