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止まない雨


 久しぶりに、絵美と啓に会った。二人の関係はあからさまに悪くなっていた。そうだろうなと思う。むしろ当たり前だと。二人が付き合っていること知ってから、二年。仕掛けた時限装置は、着実に二人の間に侵食し、巣食っていた。ボタンを押さなくてもいいのかも知れない。そんなことしなくても、もうすぐ壊れるだろう。静かに、終わっていくだろう。
 外は大降りの雨だ。いっそ気持ちよいと思うほど、何もかもを洗い流してくれる。かつて絵美の場所だった助手席に、当たり前の顔をして座る私。当然のようにそこへ座らせる啓。
 「久しぶりに会ったと思ったら、海外ボランティアの話なんて!私全然聞いてなかったよ、啓。すごいびっくり」
私は大げさに驚いて、啓の顔を覗き込む。
「ちょっとね、不意に思い立って。なんていうの?俺にも何か出来ることがあるんじゃねえかってずっと考えてたんだ」
「すごいよね!尊敬しちゃうよ」小首を傾げて微笑めば「そうかなあ、まあ、若いうちにしか出来ないかなって」と照れたように言う。
 後部座席の絵美を振り返って同意を求める。そのこわばった笑顔に、私は優しく微笑む。
 海外ボランティアに行くという啓のために、お守りを買ったと言う話を絵美から聞いて、私は彼女が渡す前に啓へ渡した。うまく立ち回るということはこういうことなのよ、絵美。
 
 車は迷いも無く、私のアパートにたどり着く。もちろん私が道案内をしたわけではない。絵美は知るだろう、何度も啓がここに通っていることを。
「ごめんね、明日仕事だから!日本に戻ったらまた遊ぼう」と私は降り際、啓の目を見て言う。本当はもっと一緒にいたいけどという気持ちをこめる。 アパートへ戻るまでの間、ドアの中へ完全に姿が消えるまで、彼は私を見ているだろうから、気を抜かない。こちらが追いかけすぎてはいけないのだ。名残惜しむくらいでちょうどいい。最後に小さく手を振る。雨が効果的に演出してくれる。
 
 濡れた服を着替える。ベッドに倒れこんで天井を見上げた。目を閉じると、雨の音が一層強く胸に響く。
 思ったよりもずっと簡単だった。啓なんて簡単。絵美に最後に見せてあげたかった。どうやって啓の心を手に入れたのかを。どれほど啓が簡単で単純な男であるかを。ねえ、絵美。あんな男、あなたにはつり合わない。あの程度の男に絵美は渡さない。
 一生手に入れることの出来ないあなたを思って、悲しみにまたとらわれる。雨はまだ止まない。

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