書こうとするとついそういう読み方をしてしまう。こと言論の世界では、攻めるは易く守るは難いのだ。
#1 赤い目
いい話は不可がなければ良いという観点からすれば、文句のつけようがない。しかし、作者としては書いたすべてが必要なものと思っているのだが実は省略と集中の取捨選択をした方が良いのではないかということは、この作品にもあるのかもしれない。盛り上がりが薄いだろうか、と思った。
#2 いつまでも、貴方のもとに。
白い部屋と足に怪我をした白い小鳥は良いのだと思うのだが、登場人物ふたりまでが白いのはどうにかすべきではないかと思う。この異常精神の由来をほのめかす何か、説明調ではないが説明的な何かが必要ではないだろうか。
#3 マッチ箱より
主人公の死生観の話に見えて実は淡い恋愛感情の話であるという、上手い作品である。読んでいるうちは前半と中盤がつながらないように見えて、しかし一分の隙もない。
ただ、瞼の下にマッチ箱より少し大きいサイズは、かなり大きすぎるのではないだろうか。
#4 たまねぎ
最初の四行まで『パタリロ!』のタマネギ部隊かと思った。よく知らないのだが。
たまねぎの姿が漫画チックに徹しているのは良いことだと思う。
人間が死に食料が増えることで食糧危機が解決したとすることは最悪の部類だと思う。
#5 魔法使いレイリー・ロッド
フリーゲーム『CardWirth』を髣髴させる雰囲気だと思った。
序破急の配分が上手いと思う。
#6 ペプシコーラと死
ペプシコーラを飲むと骨が溶けるとは、いつ時代の題材なのだろうか。それに加え商標の使用を極力避けたいと思う私としては、コーラで十分だとまず最初に思ってしまう。
「以上がさっき書いた日記だ」で、「読んどいてちょうだい」としていた日記はこれだったのか、とおかしく思った。事象は事象として遺書は別に放っておいて、本当に読者の想像に任せてしまった方が良くはないだろうか。
全体の展開としては、意味がわからない。立てないのに屋上までたどり着き、そして当日中に退院、立てないという事実はどこへ行ったのだろうか。
#7 雨の日に
人前で泣かないのは十分に強いと思ったこと、バス停で一人泣いているのならば誰かがどこかで彼女の泣くところを見たことがあるのだろうなと思ったことがあり、上手いとは思えなかった。
主人公がしたこと、思ったことはそれだけなのだろうか。実際に出くわせばそういうものなのかもしれないが、お話なのだからもう少し脚色しても良いのではないだろうか。
#8 蟻
題材は良いのだと思う。蟻の研究をする主人公といつしか手伝ってくれるようになった寡黙な友人、しかし主人公は記憶までが蟻に蝕まれてしまい友人のことをほとんど思い出せなくなってしまっている、それはなかなか見られない関係性だろう。しかし、あまりにわからない。「頭が蟻から解放される刹那」と「蟻は消えた」の時系列の矛盾すらある。
ただ、序破急の配分には気を遣っているように見受けられた。
#9 無限大はどこまでも
一、何の話なのかわかりません。
二、どれが過去の話でどれが現在の話かわかりません。
三、これは続きませんよね(黒田皐月は本作を放り出した結末だと読んだ)。続くのであれば千字小説サイトに投稿しないでください。
#10 10時5分ちょっと前
恋愛ものは得意ではないのだが、プロローグと十時五分ちょっと後は矛盾しているのではないかと思った。それから、せっかくここまで形を作ったのだから、エピローグでも彼の登場は十時ちょうどで良いのではないかとも思った。
#11 結して開す
向かい合っている二人が何をしているのかということは他人からはわからないものだということを上手く描いたものだと思うのは、見当違いなのだろうか。
Newsの並びでないことと、最後が「M」とされている理由がわからなかった。
#12 擬装☆少女 千字一時物語40
どうしてそこまでわかるのか、というご都合主義。
最後の最後で希望に転じようとするのは癖なのだろうか。
#13 雷
読後感としては拍子抜けした感じがある。今の日に雷を加えるなどもう少し書き足しても良いかと思うのだが、実は今の日の啓がどういう状況にあるかということには大きな自由度があり、それはそれでひとつの変わったやり方だとも思う。
#14 ゆめ
迷子の気持ちのひとつなのだろうか。しかし「遊園地みたいなところ」と最初から曖昧にされているので、もっと違う異常な何かなのかもしれない。
#15 大森ヨシユキの恋
骨組みだけの現状に肉づけすべしと言いたい。
実は大森くんは主人公だけに甘えているのではないだろうか。そうだとすれば先は厳しそうだ。
#16 夢の中
人間にとって夢とは何なのだろうかというような作品で、この世界における現実と夢のつながりを教えてもらいたいところなのだが、それを書けば冗長になってしまうだけなのだろう。読者がそれぞれ想像するべきことなのかもしれない。
前半の主人公の電話応対が良い切れ味を持っていると思う。
#17 遠い彼女
まさかそういう落ちだったとは、というのが感想の第一。
同級生との距離は、いつも一緒に遊ぶ友人と言えるほどでは破綻してしまうが、もう少し近くても良いのではないかと思った。
#18 FUSE
言葉というものにこだわりを見せる姿勢は、私は好きだ。電撃、ヒューズ、溶け出す、このつながりに私は好意を持った。ただ、そういう観点からは「ローマ字」ではなくて「アルファベット」とすべきだったと思う。
#19 ホテルオンザヒル
何かが決着したという感じが弱いように思え、何かのプロローグだと思えばそう読める。
なぜその部屋だけは三年間も入らなかったのだろうかという疑問を、私は抱いた。
#20 レインコート、ゴオゴオ!
今回は一話で完結しているもののように思えなかった。そのためか、感想の書きようがない。
#21 犬
異形にかこつけて描いていることは普通のことでしかないように読んだのはひがみか何かなのだろうか。
ケルベロスとオルトロスの掛けあわせで頭が五つになってしまうのならば、果てはキメラかヒドラになってしまいそうだと思い、気色悪く思った。
#22 雨の日
吸血鬼が安アパートに住んでいるという図がどうも納得できない。豪邸か住居を持たないかどちらかという先入観が私にはあるのだが、本作の場合は安アパートでなければならない。
吸血鬼に「朝」という言葉を使わせるべきではないと思う。「今日のご馳走は」とすべきだ。
#23 坂のウエの景色
子供の頃の特別な思い出としてきちんと描かれていると思う。「ウエ」とわざわざ漢字を使わなかったことに、特別な思い入れが感じられた。しかしその割には「旨さ」と「美味かった」といったところなど、漢字の使い方が合っていない箇所がある。
結末である改行以降はいつの時点のことなのだろうか。憂鬱でしかし美味しいという心境は坂のウエに行った時点から遠く離れていなければならず、それならばその時点の主人公の置かれている状況を端的に説明すべきなのではないのだろうか。
#24 白線
感じ、想ったことを挙げれば、以前からの作家としての活動という似た題材で書いても、qbc氏と宇加谷氏ではかなり違うものになるのだということがある。説明はできないが、良否といった単一軸では並べられない、色香が違うように思えるのだ。両氏の場合でも、登場人物についてわからないこともあるのだが、伝えるべきだろう心境が描写されていないことはないと私は思っている。
そう言えば最近は普通に漢字を使っているな。
#25 虫満ちる地の夢
友人とは過去にいた誰かなのか、主人公が望む想像なのか。主人公は眠っていたはずなのに虫に食われていないのはどういうことなのか。力強く一歩を踏み出してどこかに希望があるのだろうか。事象以外はわからないことが多いと思った。
#26 ケイタイ貴族
これも拍子抜けの感が否めない。発信者がわかった時点で所感なり、過去の自分に向けた行動なり、描くべきではないだろうかと思った。それから、誰も番号を知らない携帯電話を持つ主人公ならば、あの状況下で電話に出ようとすることはないのではないかとも思った。
#27 蟻と作曲家
上手くふたつの話を組み合わせて作れているものだと思った。「蟻一倍」という細かいところまで気を配っていることも感じられた。
しかし、もののサイズが怪しい。材料も怪しければ音色も怪しい。それから、第一文の前提と「労働者階級」という言葉は無用だと思う。
#28 眼鏡
まとまったように見せない作風なのかもしれないが、まとまった感じがしない。川野氏のいくつかの作品は気づかないようなかすかな心境に気づかせてくれるものだと私は思っているのだが、これはかすか過ぎるのだろうか、私の感度が悪いのだろうか。
11月30日14時時点で公表されている得票状況によれば、『40』が二票を得ている。感謝すべきところなのだろうが、これはサイト『短編』はすでに終わっているという意見ではないのだろうか、という疑心暗鬼を私は抱いてしまっている。