セロさんの全感想に触発されて私も205期の感想を書かせていただくことにしました。
実はかなり昔に別名義で当サイトに投稿していた時期があるのですが、その頃に比べると随分感想が減ってしまっていて残念に思います。
読み手の忌憚ない感想こそが書き手へのなによりの成長材料になると信じて、拙いながら感想にしてみました。
ネタバレありなので205期未読の方はご注意ください。
「名探偵朝野十字の事件簿:赤い蜘蛛の恐怖」(朝野十字様)
たった千字でミステリを提起し完結させる力量にいつもながら感服しました。
物語の起承転結を千字で書くにはどう書くべきか、この上ない見本となる作品です。
ただ一つ気になったのはオチの部分。
アラクノフォビアの少女が部屋の壁に蜘蛛の模様を見せられてベランダに逃げ出すのか?というところ。リビングには母親も家庭教師もいるわけで、ふつうならそっちへ逃げ出すような気がします。
年頃の女の子だから慌てふためいた自分の姿を二人に見られたくなかったのか。それとも犯人に携帯かなにかでベランダへ逃げるよう指示されていたのか。その点だけが気になりました。
「その瞳に映るのは。」(さばかん。様)
二人を通した切ない世界と雰囲気がよく書けていたと思います。
余談ですが松任谷由実さんの「ひこうき雲」という歌の歌詞が頭に浮かびました。
主人公が友人に学校のプリントを渡したときの「もう全然、分かんないや」というセリフがいいですね。病で長らく学校へ行けなくなった友人の現状と、そんな友人に寄り添い続ける「俺」との関係性がよく伝わって切なくなりました。
一つ残念だったのは、友人が天気と空の表情について描写するシーン。
雨の時は泣いている、夕焼けの時は照れている、という表現はいかにも一般的に思い浮かぶ表現で、もう少し作者なりの言い回しがあればもっと良くなるのになと思いました。
「蜂蜜トースト」(ハンドタオル様)
文章に謎な勢い(誉め言葉です)があって楽しく読めました。
「〜蜂蜜トースト」という言葉がいくらなんでも多すぎるのは気になりましたが、それが作品に独特のリズムを生んでいるのもまた事実。悩ましいところです。
「蜂蜜が無限に湧き出る壺に〜」の言い回しが個人的にツボでした。
ところどころ入る自分へのノリツッコミも良いですね。
「いくらお金を積まれても」(テックスロー様)
相変わらず独創的な世界を描くのが抜群に上手い書き手だなと思います。
作中の世界では通貨はもはや記号にすぎず、命や愛の境界すら曖昧になった世界で、人々は互いに知るもの知らないものをやり取りすることでかろうじて五感(自我)を保っているのだと思います。
ラストの「呼吸がそのまま信仰になった」という表現は、それでも生きるほかない主人公の切ない希望というか祈りに似た感情そのものなのでしょうか。SFチックなんだけどどこか物悲しい世界観がたまらなく好きな作品でした。
「罪と罰」(世論以明日文句様)
非常に教訓めいた寓話のようなお話だと感じました。
たった一人で暮らす「僕」は、同じくたった一匹で買われている猿に自分自身の姿を重ねていたように思います。
しかし気まぐれに猿に自慰を教えてしまったがために、猿は生きがいを見つけてしまいます。僕は猿に裏切られた想いで猿の陰茎を切り落としますが、猿に復讐され目を潰されてしまう始末。
目を失ったことで僕が初めて外の世界へ出るようになり、生きがいを感じられるようになるのはとても皮肉が効いており、考えさせられる作品でした。
「死んでいった者たちへ」(ゼス崩壊)
自作につき感想割愛。
私は昔からスマホに文章を書き留めているのですが、書きかけの作品が多く、そこから着想して物語にしました。
「キヅイテ」(わがまま娘様)
おそらく今期最大の問題作(誉め言葉)。
一読して意味が分からず、十回以上読み返しました。
おそらく彼女は以前に主人公へ何らかの告白をしたが、思いが伝わらず、主人公は今になってようやくそれに気付いた、というストーリーなのでしょう。
ヒントとなるのは「同じ音、同じ動き」であり「寿司好き」という言葉が自分の名前を呼んでいるように思えた点など。
ただし彼女がなんと言ったのか作中で明示されておらず、読み手は想像するほかありません。
「寿司好き」の母音は「u-i-u-i」なので、私の勝手な私見ですが、主人公の名前は「ユキ」とかそんな感じなのかなと。彼女は「ユキ、好き」と想いを伝えたけど主人公は「雪好き」と勘違いしたとか。(合っている自信は全くありませんので作者の答えを聞いてみたいです)
いずれにせよ場面転換や伏線の貼り方が巧みで好きな作品でした。もうちょっと作中でヒントがあるとよかったかな。
ゼスさん、僕が言うのも変ですが全感想と投票、ありがとうございました。
わがまま娘さんの作品は、そもそも1000字の短編用じゃないのを切って投稿してるんだと思っていました。
〉ゼスさん、僕が言うのも変ですが全感想と投票、ありがとうございました。
〉わがまま娘さんの作品は、そもそも1000字の短編用じゃないのを切って投稿してるんだと思っていました。
セロさん、先に感想上げていただきこちらこそ感謝しております。
全くの余談ですが、「世論似明日文句ってなんて読むんだ?」と思ってました。
有名なジャズピアニストから取られているのですね。気付いてニヤリとしました。
わがまま娘さんの作品は小説コンテストだと大減点で評価対象外になると思いますが、残された謎以外の描写が好みだったので投票しました。