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 改変が何ひとつ思い浮かばない中、ろくでもないことを考えてしまったのですが、本記事を贄に誰かの何か面白いことを呼べるのであればと期待して、撒き餌のごとく投げてみたいと思います。
 『遠い彼女』、本当に落ちには驚きました。考えたろくでもないこととは、それが女装癖だった場合。スナイダー氏には本当にごめんなさい。番号『29-0.1』は、キャラクター的に『短編』には投稿していない『29』がいちばん近いだろうかと思ってつけたもので、かなりどうでも良いです。

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擬装☆少女 千字一時物語29−0.1

「好きな子って、いる?」
 同じ班の男子が唐突に俺に話しかけてきた。彼とは普段それほど仲が良いわけではなく、今までにこんな腹を割った話などしたこともなかった。しかし今日は特別な日、修学旅行の最終日前夜、この種の話は最もポピュラーと言って良いだろう。
 しかし、俺が正直に答えなければならない義理はない。浮ついた空気の中、彼も俺の真剣な答えなど期待してはいないだろう。それに、彼に答える名前を俺は持ち合わせていない。別にいない、そう言えば良かった。しかし口が動かない。脳裏にどうしても彼女の姿が浮かんできて。
 どんなときでも見せてくれた笑顔。手招きなどの可愛い仕種。お気に入りの服。もうずっと姿を見ていないのに、彼女の姿が俺の頭から離れることはなかった。彼女は俺の中では確かに生きている。しかし事実として、彼にとって彼女は存在しない人間なのだ。
 そんなことをここで言っても、空気が重くなるだけだ。それは今日という特別な日にはそぐわない。それならば、別にいない、と言うのが模範解答だ。それなのに、俺の口は俺の意思に逆らって勝手に動いた。
「いるよ」
 彼は驚きに顔の筋肉が硬直したようだった。俺が軽く否定することを予想していたのだろう。しかしそれはせいぜい一秒のことで、彼は俄然好奇心を発揮して問いを連発してきた。
「誰? うちの学年? って言うかうちの学校?」
 熱くなる彼を前に、俺は逆に冷淡になっていった。
「いや、会わせられないんだ。俺がどんなに願っても」
 驚くと目が丸くなるというのは、大袈裟な表現とは言え嘘でもない。俺はそれを見て取った。
「えっと、つまり……。それって、……訊いても良い?」
 遠慮はあるが好奇心を収めきれない彼に、俺は首を回して彼から目を離して、すぐに答えた。
「俺たちとは違う世界にいるってことさ」
「……そうか」
 彼の声から熱が失われるのを聞きながら、俺はもう一言呟いた。
「そう、あっちの世界にな」
 望まない話を聞いてしまったと思ったのだろう。彼は、ごめん、とだけ言って俺の側から離れていった。

 俺の視線の先には、鏡に写った俺がいる。俺がそこに求めているのは、もう一人の俺、いや、鏡に写る可愛く着飾った私の姿だ。修学旅行ももう四日目、つまりもう四日も彼女に会えていない。早く家に帰って、彼女と一緒に笑いたい。
 班の男子たちの後姿を目の端に映しながら、俺はありもしない姿を鏡の中に探していた。

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 あからさまにナルシストというキャラクターは、今まで描けずにいるもののひとつでした。そういうものはハンニャ節が良いと思うのですが、到底できるものでもなく、だから描けずにいるのだろうと思います。

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