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予選時に書いたもの。

#1 未来はその先にある
主人公の気持ちが漠然としすぎている。「未来はその先にある。」という言葉を繰り返すだけでは何も伝わらない。「その先」にある何かをどうにかして表現できないものか。しかし「太陽が、眩しい。その中に姉は消えていく。」という表現はとてもいいと思う。

#2 沈みゆく音
「さやさや」「ゆらゆら」「ざらざら」といった擬態語は安易に使わないほうがいい。その場面でしか使えないような言葉で表現するという努力をすべきだ。でも言葉のセンスや、小さな世界にのめり込んだような表現は素晴らしい。

#3 僕はカポ
アンドロイドにもし心があったら、という視点は悪くないし、誰も気にしないところで色んなことが起こっているという話の展開も興味がそそられる。でも、そこからもう一歩進んだ展開やアイデアが欲しい。

#4 研ぎ師のおじいさん
淡々とした口調や、淡々と話しが進んで行く感じが心地よい。包丁で野菜を刻むようなリズムを意識したのかもしれない。でもこれは、小説というより喩え話を使った人生論という感じがした。

#5 12月の雪と夢
なんとなく熱は伝わってくるが、状況の説明がわかりづらい。ただ、告白してきた女の子がとんでもなくかわいいということは伝わってきたが。

#6 新時代の幕開け
掛け合いの雰囲気はよく表現できていると思う。ただ、掛け合いの途中に、ロボットや出演者の表情を描写する文章(段落)を挿入するとか、第三の視点のようなものを入れたほうが、全体的に締まるし、物語に広がりを持たせることができるんじゃないのか。このままでは、結論ありきで言葉を埋めていったような文章にしかならない。

#7 ある日の夕焼け
おかしな文章がいくつかあった。例えば冒頭の「学校からの帰り道、どこかよさげな住宅の並ぶいつもの道を歩いて、家へ帰ろうとしていた。」という部分。最初に「帰り道」と言っているのだから、最後の「家へ帰ろうとしていた」はいらない。ただ、「赤い椿が花を開いていた」という箇所に見られるような、主人公の気持ちを別の何かで表現するという方法は悪くないと思う。

#8 おとこらしく
全体の構成や、文章のリズム感は悪くない。ある程度書き慣れている感じがする。ただし、オチまで読むと、結論に沿って文章を埋めているだけという印象を受けてしまう。途中で遊びのようなものが欲しい。

#9 チユミ
文学的な言葉の鎧をまとって、頑なに言葉を埋めているという印象を受ける。「薄茶色」「傍観者」「熱気のこもったうす暗い風」「薄くなでていく」「たれこめた」「生温い風」「すすけた色」。本当にこれらは考え抜いた言葉なのかと思う。ただ、物語の雰囲気をどうにか伝えようとする熱は伝わってくる。

#10 黒い黒板
梨花のことをもっと書くべきではないのか。やっと物語が始まりそうなのに、これでは何も伝わらないだろう。あとの500文字でそれを書いたらどうか。

#11 靴音
「にと」という不自然な表現は、何かしら人生に抵抗しているということなのだろうか。こういう実験精神は嫌いではないけれど、思いついた表現をただ丸投げしているだけという感じもする。ただ、「普通をできない人は、何をすればいいのか。」という部分には身につまされるものがある。

#12 違う人生
こじんまりとしていて、世界が閉じていくような感じ。わざわざ言葉で何かを表現する意味が伝わってこないし、ただ言葉を埋めるだけではつまらない。完成度は高いと思うが。

#13 列車にて
「すぐに違う風景が私の目の前に現れるから、私の手の中はいっぱいになって、泣く泣く何かを捨てなければいけない。」この表現は悪くない。ただ、型どおりの話を、型どおりの言葉で埋めていっただけという感じがする。表現したいものが見えない。

#14 雪と夜のタブロー
物語に集中する意識が途中で切れる感じがする。空行の使い方を見直したほうがいいのではないか。そして言葉は厳選されているが頑なな印象があり、いい表現はいくつもあるが、読んだあと不思議と何も残らない。もっと素直な表現をしたほうがいいのではないか。

#15 ギフト
なんとなくノリで書いている感じ。宇宙人の描写や、ありえない感じをチョチョっと書いて、あとは後日談という典型的な展開。ただ、管理人のばあさんの下りは物語のアクセントになっていると思うし、ばあさんが部屋を訪れて一悶着あるという展開もありかもしれないと思った。

#16 朽ちていく匂い
「濡れそぼった落ち葉」なんて、古い本の中にしかない表現だろう。それを今あえて使う意味を考えなければ、ただの古めかしい文体や、古い文学に憧れるだけの文章になってしまうのではないか。文章はそれなりにうまいと思うが。

#17 銀座、雁坐、仁坐
「放射能」という言葉は、このサイトではほとんどお眼にかかれないので率直にうれしかった。ただ、小説の内容としては、吉田という人物を切り口に語っていることは分かるのだが、後半部分でいきなり世界に話が広がって、吉田という人物の立場や、物語の着地点が見えなくなる。もう少し話を整理すべきじゃないのか。

#19 タヌキの哀しき皮算用
「文体小説」とでもいうか、古風な文体に頼った小説が流行っているのだろうか。しかも中途半端というか、アクセサリーのように文体を扱っているような気がする。話の展開は悪くないが。

#20
絶え間無く注ぐ愛の名を
革命か戦争を傍観しているという話だろうか。なんとなく絶望感や緊張感は伝わってくるが、だいぶ話が飛んでいて分かりづらい。言葉や文章を貼り付けて、かろうじてつなぎ合わせたという感じがする。言葉の選び方や文章の切り方は悪くないと思ったが、最後の「ひりついて」という言葉は、いかにもありがちな表現だ。

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