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○#2「爆弾彼女」の感想(小出しですいません)

#2「爆弾彼女」

 この小説が面白いのに泣けてくるのは、話を読み終えてもう一度タイトルに目をやったときの

<爆弾彼女>

 というフレーズがもつ切実さだろう。主人公の恋人は近いうちに爆発してしまうのである。にもかかわらず、主人公の「僕」も、恋人の父親も、その恋人当人さえも、自爆する宿命の爆弾少女という存在をちっとも疑っていない。誰も止めようとしていない。たぶん、ここがポイントだ。

 これは冷酷なようにみえるが、、ある意味では一番正直な態度でもある。この3人がそれぞれどんな状況にあるのかはわからないが、3人とも、人生においてあきらめなければならないことがあるということを、知っている人たちに思える。

 テロリストの父親にとっては、自身の信念のために捨てなければならぬ宿命を受け入れているし、この主人公からは、なんとなくジゴロの哀しさのようなものを感じる。女を好きで、その女には尽すけれども本質的な部分では、女は別の男に身体を売って自分を食わせている、それを受け入れることには慣れてしまった……といった寂しさがこの主人公にはある。

 そして、自分が爆発すると知っていて、しかもテロリストというほど信念があるわけでもなさそうなこの<爆弾少女>の存在のあきらめ加減こそが、もはや美しくさえある。死ぬこともあきらめているというのに、その一方で彼女はとてもユーモラスだ。いまさら彼氏ができたって、付き合ったってしょうがないのに、その彼氏のまえで、自爆のマネをして彼氏を驚かせようとするところなど、やはり爆弾人間につくりかえられたって、彼女は人間なのだ。深層においてはどこかで生きていたいということは思っているにちがいなく、まるで止めてほしいと思っている感情の表出のような、爆発の真似をして彼氏に精一杯甘えている。

 しかし、彼氏も父親も彼女も、爆発することをやめようとは一言もいわない。


「ちゃんちゃん♪ なーんてね! けど本当に爆発したらどうする?」

「それでも好きだ」

↑このセリフでこの作品はしめくくられるが、これはただのオチ云々ではない。まず「それでも好きだ」と主人公は言うけれども、そこには

(好きだけど僕は君の身代わりにはなれないし、やはり僕は結局のところいわゆる普通の男のように君を心底では愛していないのかもしれないのだろう、いや……それでも僕の生き方においてはこれが僕の愛し方なんだ)

という書かれていない部分を補って読んでみると深みがでてくるし、

「けど本当に爆発したらどうする?」

ときいてくる女には、

(私はもうすぐ爆発するのよ、でもあなたがすべてを捨ててでも私をとめないことはわかっているわ。あなたは全部口先だけ。きっと、好きだ好きだでごまかすでしょう。だけどそのときのあなたの顔と声はやさしくて、それなのに内側では私だけではなくてすべての人間を心から愛することができない。ロボットと同じ。私と同じ。あなたのそんなところ好きよ……)

 と読めてくる。そうしてくると、これはただの話ではない。私の誤読かもしれないが、こうした誤読を可能にさせるか、それとも作者の一方的な方程式をなぞらされるだけか、というところが、小説ならびに芸術の、いわゆる普遍性というやつであって、普遍性というのは広く流行してウケるという意味ではない、ということも作品とあわせて考えた。

 とてもいい作品だったと思うし、この作品を読んでから前期の同作者の作品を読むと、これはもう泣けますねえ。


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