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今回は決勝投票しか間に合わず、ちょっぴり残念でした。そしてeuRekaさん、作品投稿へのお誘いの言葉をありがとうございます。
いずれはと考えていたので背筋が伸びる思いですが、その時には是非とも宜しくお願い致しますね。

さて、今回も自分なりに各作品と向き合った感想です。



#1 魔女の空
・最後の一文で魔女へ立ち向かう理由を述べられているのだが、これは妻が魔女に殺められてしまった、或いはその魔女が妻自身なのかと少なくとも二つの想像が挙げられる。何にせよ、妻の為に魔女へと対峙したのかと考えると悲痛な展開である。缶ビールのそれこそ生温い雰囲気から、不気味な魔女の動き、そして対峙する時の一瞬の残酷さまでを流れよく繋げていると思う。内面より情景を重視にして描かれている印象。


#2 おれのおじさん
・モノクロとセピアの間のような、文脈や話だなと感じた。おじさんへの情が無いようにも捉えられるだろうが、所々におじさんへの情を感じられる部分があったように思える。あたたかいおじさんと冷徹そうな父親の間で、どちらにもつく事の出来ないようなジレンマも感じられた。一つだけ持ち帰った戦闘機、だけどそれを視界に入れる事は心苦しい。そうして晩飯へと思考を現実に強制的に引き戻さねばという事が、己の中の葛藤をも押し込める、そんなニュアンスに捉えられた。もう少し文を工夫すれば、深い作品になるように感じる。


#3 第二幕
・視点は面白いなあと思いながら読み進めた。フィルム越しに見るような感覚が、日常の風景を違う様に縁取られる。文章テンポも良く、情景描写も自然。タイトルから察するに一幕目が午前の撮影の部分であり、二幕目は所謂『現実』といった所であろうか。創る世界と現実の誤差を表しているのかなと思う。一幕はどこか浮遊感ある文体で、二幕は地べたを這うような文体で構成されており、無駄がないように感じる。しかしながら、何故かあともう一匙、何か欲しいと思わせる作品であった。


#4 ルーティン人生
・最後まで読み終えてから今一度タイトルを見ると、作品で言いたい事が強調されるような話。リアルでも有り得る、誰にでも可能性のある話である。この男性は普段の生活で余程ストレスを抱えて生きているのだなと思え、また劣等感も抱え込んでいるのだと伝わる。夢落ちかと少々肩を落としかけたが、だからこその伝え方なのではないかなと思える為、所謂ただの浅はかな夢オチではないかなと感じた。個人的には、夢の中でも夢から覚めてもこの男性には嫌悪感はない。乱暴な言葉遣いではあるが、くすりと微笑ましい部分も存在しており、憎めない人間性をコミカルに描いているなと感じる。人によっては、どこか安心感の持てる作品でもあると思う。


#5 ある夜
・ある意味で盤石なお話。特筆して個性が抜きん出るものは感じられないけれど、純文学の例題を綺麗になぞり纏め上げたという印象。それ故に少々、気になる言い回しや文脈があると目立ってしまうのが難である為、厳しい目でも見られがちだろう。反対に、良い言い回しも存在するのだが少しくどく思える部分もあるかなと。丁寧に美しく、を心掛け過ぎて堅くなっているような印象も受けるので、更に自然に描けるようになったらまた違う魅力が生まれるかなと思う。前半は文章に酔い回されている感じだが、露玉の話辺りはファンタジックで美しい世界をナチュラルに描き出せているように感じられた。削ぎ落としと減り張りが磨かれると、より洗練されていく文体や話になるのではと思う。


#6 羊飼い
・『嘘吐きの自分』について延々と綴られていく話。独り語りであるが為、客観的な情景が見え難くて、ただひたすらに嘘吐きの自分に溺れていく様を見せられている。思考の沼に落ちて抜けられないような、言わば独善的な語り口のみであり、ポエム寄りの作品となっている印象。もしかしたら最初は周囲の事を気に掛けて吐いた嘘が、段々と自分の事しか考えられなくなっていく様は、一方の視点のみよりは他視点もあった方がより深みが出るのではないかと思う。もしくは、嘘を吐いた事に対しての結果とされる情景描写がもっとあれば、物語に奥行きが出るかなと。タイトルは羊のような己を内で飼っているという意味合いか、羊のような周囲の人達を嘘を吐きながら飼っているという意味合いか、判断し辛いのも態となのだろうか。すべてが曖昧で定まらない為、読み手としても着地点が見つからない。それが狙いならばそれまでなのだが、読後に残る何かは感じられなかった。


#7 闇と光と
・情景描写が少し分かり辛い箇所があったが、テーマは悪くない。個人的に感じるのは、作者の文体にどこかしら柔らかさがあるので、良い意味でも悪い意味でも物語に丸みを帯びる気がする。その為、闇を描いてあっても暗くなり過ぎない。逆に言えばダークさの深みに欠ける。だがそこが作者の色でもあると思うから、大切にして欲しいなと勝手ながら思う部分でもある。どちらかというと、光を描く事が似合う文体だなと感じる。なのでこの作品に関して云えば、闇の部分は正直物足りないのだけれど、最後のくだりでの光に当たる部分は物語と文体の呼吸が合っているように感じる。うまくは云えないが作者の想いが呼応しているかのような、闇の部分とは確実に違う、描き方への意志を感じる。『闇の中の光』を映し出しやすい文体。個人的には大事な良い個性だと思うので、そこを残しつつももう少し幅のある物語性と暗い側の深みも加われば、より魅力的な作品が出来上がりそうな気配はする。


#8 遠い西洋
・朗らかな気持ちになる作品で、つい読了後にくすりと笑いが零れてしまった。文体も会話も軽やかで、やっている事も可愛らしいものなのだが、馬鹿馬鹿しくなるだけでないのは二人の言動が大変奥ゆかしく、誠実さを感じられるからかもしれない。そういった意味でも西洋と東洋のコントラストになっていると思う。この二人なら永く仲睦まじくやっていけそうな、そんな事を予感させる一時を軽快に切り取られたキャラクターが全面に強調された作品かなと。


#9 いつか私を殺しにくる
・何とも不可思議な読後感である。“痛み”が人型の女となって現れているのは分かる。しかし、女の『仕事』がいまいち掴めない。痛みを与える事が仕事なのかと思いきや、歯科医となって行った仕事も女の仕事。それでいて最後には男に求婚される女。恐らくはその一言を言わせるが為の様々な行為だったのかとも思える。女の立ち位置があやふやな幻影のようで掴めないし、存在していると受け取っていいのかさえも読了すると分からなくなってくる。それが狙いなのかと思うなら、だとすれば女も赤ん坊も地球人以外の生命体なのだから不可思議な事はそのままにしておく方が賢明なのだろうか。オチとしては大胆とも云える一方、些か強引な持って行き方かなとも感じられた。好みがそこで分かれるかなとも感じる。個人的には途中までは好みだったのであるが、オチは違うものがよかったなと思う。


#10 坩堝
・とかく重苦しい内容はさておき、句読点の位置などで読み難さの目立つ文体であった。態とそうしてあるのかもしれないが、そちらを追う事に意識が行きやすくなり本末転倒な気もしてしまう。結局の所、ぐるぐると巡り繰り返すような不気味で無情な終わり方であり、物語としての深みは無いように思う。ただただ殺人が繰り返されるだけ。作品の中で何をしたかったのか伝わらないし、言葉遊びのようなものとタイトルからするに混在したものが描きたかったのだろうが、なんとも後味の悪さだけが残ったのは確かだ。


#11 川向の喫茶店
・面白い発想の作品だった。近未来的な話でありつつ、ならなくはない未来予想図をAIや若干の皮肉を用いて描いている。川で隔たれている事には古風なものも感じられ、其処で過ごす人達から忘れ去られてはないものも其処にある気がして、何故か妙に温かい気分になる。コーヒー以降の一連の流れから、タイトルでも感じた密やかな温もりを表現しているかのようだった。最後のやり取りは皮肉めいていて、尚且つ情の効いたものだと個人的には感じられた。寂しさと温もり、近代化と古代が織り交ぜに存在する作品。

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