お久しぶりです。霧野です。
#1 てんとう虫
>「ああ、見てしまった」と天を仰ぎたくなってしまう。
そういう気分になることを想像すると、テントウムシがなんだか不気味な生き物に思えてきます。虫好きでないのに見入ってしまうから見つけたくなかった、という理屈でも解釈可能ですが、
>私はまるで自分の妙な癖を知人に見られてしまったような気分に陥りました。
という文を読むと、テントウムシに対して、何か後ろめたさでも抱えているのだろうかとも思えてきます。全体的に心情の機微は面白いと思いました。
#3 9448904390
こういう作品はどこからひねり出す物なのかわかりません。発想はあっても作品の形まで持っていくことが自分にはできないので、純粋にすごいなと思いました。
名詞的あるいは動詞的に使われている各数字が何を意味するのか、作品が何を象徴しているのかもわからないまま読んでいると、最後に現実的なオチが現れて、今までのは何だったのかと少し笑ってしまいました。マイナンバー与えられない場合もあるんでしたっけ。
#4 milk pan
無垢だが、生々しさがあり、けだるい感じが、朝の雰囲気にぴったりだと思いました。
惚れた弱みみたいなものがよく表れていて、ゆえに歯がゆさも感じます。約束のない関係に対して進展を願うのはリスクが大きくはないのか、男はあなたを都合の良い女だと思っているんじゃないか、などと余計な心配をしてしまいました。
#5 電車にて
文体が不健康だな、と思っていたら、髭も一週間剃っていないという不健全さ。退廃的な雰囲気とはこういう作品に対して使う言葉なのかなと思いました。
周りの人間は彫像としか呼ばれない。バーチャルリアリティでのやり取りは具体的。できればネットに引きこもっていたいけれど、アナウンスは容赦なく具体的な駅名を告げるから、仕方なくリアルを生きている、みたいな怠さを感じました。
あと椅子に座る彫像の前に、「部屋で眠らない人」のプレートを置いておきたい。
#6 五輪書
レースみたいな描写は抽象的な(人生における戦いの比喩的な)内容と読んで良いのでしょうか。それがいい感じに生ビールに支えられて、地に足の着いた話になっていると思いました。何と戦っているのか、誰と張り合っているのか、よくわからないまま走り続けた武蔵75歳は何を思うのか。
最初の一文はビールがすごくおいしそうに感じる名文かと。
#7 終わらない国
罪の連鎖を描いた作品、、と読みたいが、悪魔の切り替えの早さが怖い。性格をみると確かに鬼は鬼的で悪魔は悪魔的だなと思いました。
結の部分では「おはなし」的にまとめられているけど、こういう作品って「おはなし」自体の示唆を超えて何か深い意図があるんじゃないかと、読解力もないのに勘ぐってしまいます。
#8 火星小説
うっかり小説投稿サイトの現状と重ねてしまいました。自己表現ばかりしたがるくせに他人には無関心、というのは、あるいは特定のコミュニティに限った話ではないのかもしれませんね。自分にできる深読みはここまででした。
火星の小説は小説について書かれたものだそうなので、本作品も火星の潮流をある程度汲んでいるわけでしょうか。あと地球を破壊する経緯が突飛で笑いました。強すぎる。