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本文: 〉ラスト! #16です。 〉 〉 〉 〉#16 そこに怪物はいる 世論以明日文句 〉<a href="http://tanpen.jp/200/16.html">http://tanpen.jp/200/16.html</a> 〉 〉 この小説は、いわゆる「神の視点」で書かれていますが、「奴」を視点人物とした三人称の部分と、「あなた」に語りかける二人称の部分とが、まざり合っています。これを以下のように分けてみます。 〉 〉 「奴」視点の三人称:1段落目から3段落目 〉 神の視点:4段落目から5段落目 〉 「あなた」などに語りかける二人称:6段落目から7段落目 〉 〉 では、1段落目から見ていきましょう。 〉 〉 奴は大化の元号と共にやって来た。深い谷から姿を現し、最初は一枚の田を襲った。米を喰い尽くし腹を満たすと、荘園を治める領主を襲って、脳をNoと言わせずに乗っ盗った。 〉 〉 Wikipediaによれば、「大化」とは「日本で最初の元号。白雉の前。西暦でいう645年から650年までの期間を指す」とのことですので、「奴」が「深い谷から姿を現し」て「やって来た」のは645年だと考えられそうです。「奴」は、「一枚の田を襲」い、「米を喰い尽くし腹を満たすと」、「荘園を治める領主」の「脳」を「乗っ盗」るのですが、「大化」の時代の「領主」が「No」とは「言わ」ないでしょうから、「奴」視点の三人称で語られていることを踏まえて、「奴」は少なくとも日本語圏の存在ではないと考えられそうです。 〉 〉 Wikipedia - 大化 〉 <a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%8C%96">https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%8C%96</a> 〉 〉 2段落目では、「奴」の「姿」が列挙されています。「アメンボの態」をしており、「体高は七尺」、「竿のように長い足を伸ばすと二丈余りに広が」る大きさのようです。それで、「領主」の「脳」を「乗っ盗った」「奴」が何をしているのか、というのが、以下の引用になります。 〉 〉 その巨躯を領主だった者の頭の上に乗せ、光を吸い込む真っ黒な瞳でいつも人間を見下ろしていた。床の前で操る体を厚い座布団に座らせ、家中に命令をしていた。 〉 領主の体は欠かさずにキセルを吹かしていた。奴はその紫煙を吸い込み、自分の卵の養分としていた。必要な身振りは領主の体にさせ、養分を摂って卵を産むことに専念していた。 〉 〉 「奴」は、「必要な身振りは領主の体にさせ」て「家中に命令を」する一方、「領主の体」に「吹か」させた「紫煙を吸い込」んで「自分の卵の養分とし」、「卵を産むことに専念してい」るようです。「奴」は「最初」「米」を食べていましたが、1段落目以降で「奴」が「米」を食べている記述はありません。「腹を満たす」という感覚があるのですから、空腹を覚えることもきっとあるはずですが、「紫煙」で「腹を満た」したという記述は見当たりませんので、「紫煙」はあくまで「卵の養分と」するためのものなのでしょう。しかし、「紫煙」が、どうして「卵の養分」になるのかの理由になるような記述は見当たりません。 〉 〉 奴自身は巨躯だが卵は小さく、白くて米粒と見分けがつかなかった。卵は収穫された作物に混ぜられ、一緒に宮古に納められた。 〉 〉 「奴」が「産む」「卵」は、「奴」が一度だけ食べた「米」と「見分けがつかな」い見た目をしているようです。ところで、「卵は収穫された作物に混ぜられ」ていた、という記述を読むと、ある疑問が湧いてきます。そう、「奴」は目に見えるのか、「卵」は目に見えるのか、ということです。「奴」は「七尺」ある「巨躯を領主だった者の頭の上に乗」せているわけですが、「脳」を「乗っ盗った」のが「領主」一人だけで、「家中」は含まれていない以上、「奴」が「家中」に見えていれば当然、攻撃されているでしょう。攻撃された、とも、別のやり方で「家中」を制圧した、とも書かれていないのですから、「奴」は目に見えない、と推測できます。続いて「卵」ですが、「領主だった者の頭の上」で「卵を産むことに専念してい」る「奴」が、自ら「卵」を「収穫された作物に混ぜ」ているとは考えにくいですし、「奴」がサイコキネシスを使って「作物に混ぜ」ているという記述も見当たりません。とすると、「家中に命令をして」「作物に混ぜ」させていることになると思いますが、「脳」を「乗っ盗」られているわけでもない「家中」が、目に見えない「卵」を「作物に混ぜ」るなんてことはできそうにないため、「卵」は目に見えている、と推測できます。 〉 〉 時は令和、奴は活動を息長く続けている。村では米、麦、蕎麦を生産している。年中、それを村から無数のトラックが運び出している。 〉 〉 「大化」が出てきたのですから、「令和」というのは2019年5月以降を指していると考えられます。「奴」は「活動を息長く続けている」そうですが、「領主の体」が1400年近く腐敗せずに残っているとは考えにくいので、「領主」に代わる何者かの「脳」を「乗っ盗っ」て「活動」しているのでしょう。そして、同じ段落に続けて「村」が出てくるので、その"何者"は「村」の人間なのだろうと推測できます(しかし、6段落目に「今も領主の躯の上でこちらを見下ろす奴の姿」という記述があります。「領主の体」は「今も」健在?)。また、「村では米、麦、蕎麦を生産している」とありますが、「卵」が似ているのは「米」だけなので、「無数のトラックが運び出し」ているという点で重要なのは、「米」だけです。 〉 さて、「米」に紛れた「卵」を食べた人間が、どのような状態になるのかが、5段落目に書かれています。以下に、症状として書き出してみます。 〉 〉 「少しずつ気力を失っていく」 〉 〉 「同じ言葉を繰り返すようになる」 〉 〉 「自分と他人の意思に境がなくな」る 〉 〉 「何かに属することに生きがいを得る」 〉 〉 これらの症状は、6段落目で「気力」という問題に集約されます。そして、その際に、「卵」に代わって「奴の虫」が登場します。(「卵」が目に見えるのですから、「卵」から孵った「奴の虫」も目に見えると考えられます。) 〉 〉 全ての人間が奴の虫を体内に飼っている。気付かずに卵を摂取し、育て続けている。 〉 〉 そいつはあなたの気力を好物にして育っていく。すると人間はだんだん、夢を持ったり、自分の道を進もうとしたりすることに、気力が注げなくなっていく。 〉 〉 「少しずつ気力を失っていく」という症状は、「奴の虫」に「気力」を吸い取られることで起こることがわかりました。(ところで、「奴」が「産」んだ「卵」から「虫」が孵るのだとすると、「奴」もまた「虫」だということになりそうです。)「奴の虫」がおこなうのは「気力」を吸い取ることだけなので、「夢を持ったり、自分の道を進もうとしたりすることに、気力が注げなくなっていく」というのは、「卵」を「摂取」したことで直接、出る症状というわけではありません。だからこそ、語り手は、以下の引用のように「あなた」に呼びかけるのでしょう。 〉 〉 そんな時は、今も領主の躯の上でこちらを見下ろす奴の姿を思い起こせ。真っ黒い瞳が今もあなたを見ている。屈しようとするあなたを、もの言わず奴は見下している。 〉 〉 「思い起こ」す、というのは、"思い出す"のと同じ意味ですから、語り手に呼びかけられている「あなた」は、以前に「領主の躯の上でこちらを見下ろす奴の姿」を目にしていたことになります。では、唐突に登場する「あなた」とは一体、何者なのでしょう。「あなたも嫌な虫に吹かれるのを感じることがあるだろう」と呼びかけていることを考えると、おそらく"読者"を指しているのだと推測できます。とすると、「領主の躯の上でこちらを見下ろす奴の姿」を目にした"以前"とは、2段落目の記述のことを言っているのだと推測できます。(ところで、この段落まで来ると、2段落目にあった「光を吸い込む真っ黒な瞳」の「光を吸い込む」の部分が、「気力」を吸い取る、を言い換えた表現なのかもしれないと推測できます。) 〉 〉 人間よ。抗え。負けるな。臆病風という怪物に。 〉 〉 最終段落では、「気力」の問題が「臆病風」という言葉に集約されています。この「臆病風」は、「夢を持ったり、自分の道を進もうとしたりすることに、気力が注げなくなっていく」ことを指していると考えられます。「臆病風という怪物に」という文は「臆病風」を「怪物」に例えた比喩表現ですので、以下のように言い換えられるでしょう。 〉 〉 人間よ。抗え。負けるな。臆病風に。 〉 〉 さて、「奴」から「臆病風」までの流れをまとめてみましょう。 〉 〉 「奴」(目に見えない) > 「卵」(目に見える) > 「奴の虫」(目に見える) > 「臆病風」(目に見えない) 〉 〉 これを、以下のように言い換えてみます。 〉 〉 脳を乗っ盗られる(目に見えない) > 気力を失う(目に見える) > 夢を持ったり、自分の道を進もうとしたりすることに、気力が注げなくなる(目に見えない) 〉 〉 どうやら、「怪物」に「屈し」た「人間」は、「気力を失っ」たように見えるようです。 〉 〉 〉 〉(おしまい)
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