さっきのタイトルで三浦さんの18番を落としてしまいました。三浦さんごめんなさい。一つ前のグループのラストに、感想は入っております。
そんなわけで第7弾。もうじき終わりますので、ご勘弁を。
19 メフィストフェレス qbcさん 1000
この作品はかつてきらら携帯メール小説で佳作をお取りになったもので、私も同じ月にはじめて同賞で佳作をいただき、名前が並んだことでとても嬉しかった。あらためて読み返してみると凄い作品である。メフィストで観音さまとか、それぞれの行動を描写する言葉のリズムとか、実に読み応えがある。
「この日本酒は私が呑んでもよい日本酒でしょうか」という台詞は初見から印象に残ったのだが、今のお気に入りは、
> 課長が気味悪そうに頷いた。周囲は苦笑した。
と、
> 私はお猪口を飲み干す。この時だけ私は許される。
この二文だけで主人公の職場での関係(彼女が言うところの過去も含む)と、彼女の人生についての自己認識とをすぱっと書いてしまっている。秀逸。
もぐらさんの感想にあった文章の『湿っぽさ』というのは配分を間違えると露点を超えて空気中から流れ去ってしまう…えー、つまり見え透いたロマンチシズムに堕してしまうものだと思うけれど、qbcさんはそのへんが実にうまい。
20 Dreamer 群青さん 1000
白い花、の印象が作品を通じて変化する。最初、(不条理な空気はあるが)簡素に可愛らしく咲いている花に、水を与えられる描写とあいまって、水気を含んだ花弁に空の色の映えるメルヘンな白をイメージした。ところが二つの死体を花畑が包含した結果、それは乾いた骨のような白の印象に変貌を遂げる。兄の死体についてのどす黒い描写を読み超えてなお、不思議とそう思われるのだが、その理由は、繰り返される「なんて平和な生活だろうと、僕は思った」の一文と、作品を通じた主人公の語りの湿度の低さによるものであろうと思う。
隕石が落ちても平和、という語りはよくある不条理表現と当初捉えたのだが、二階に封印された(自ら感覚的に封印した)兄の死への衝撃と感覚的逃避が底にあると思うと、実感のある言葉として伝わる。
21 美空ひばり評 わたなべ かおるさん 920
> じょうかん。きかせてしまう。
美空ひばりをきちんと聞いたことはないけれど、敬愛すべき歌手を語る時は、かえって言葉少なになるのだろう。後半、娘が懸命に父の言葉を呑み込んで自分の言葉を捜している様子が初々しい。
でも正直、冒頭の語りの順番に戸惑った。「やっぱり、ひばりはすごい?」この娘の言葉の後すぐ、地の文で父の描写に入るせいか、美空ひばりの世代でない娘が聞いているとは最初思えなかった。「何がすごい?」この質問の後すぐ母の描写に入るので、聞いた娘が父の言葉を期待して待っているように読むことが難しい。さらに続けて家族カラオケ大会の回想であるから、家族を描こうとしているように思えてしまう。それはそれで、美空ひばりを囲んで二世代の感性の違いを描くというのも興味深いけれど。