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こんにちは。60期の感想その3を書きました。

#9
カニャークマリの夜
作者: 公文力
文字数: 1000

(基本的に続きものであっても、千字小説として独立した作品としていることを前提に読んでみます)
「僕」は恋人のハル子の足をマッサージをしながら、いい気持ちになったハル子の話をきいている。ハル子には「僕」公認のもう一人の恋人・榊原という男がいて、彼らがインドでどのように出会ったのかを聞いているうちにマッサージは終わり、「つづき」を楽しみにしている「僕」にハル子がキスをする、という話。

おもしろかったです! 「僕」がソファで女の足裏の角質を「そぎおとし」ながら、女のつくったカレーの具が奥歯に挟まっているのを気にするところだとか、そのハル子が冗談でかかと落としの真似をする箇所……そんな秀逸な場面描写のあと、不意にハル子のインド旅行回想になっていくところが、とっても自然で、いつのまにか読んでいて、部屋からインドが見えてきました。さりげなく「天井桟敷」の(たぶん冒頭?)のシェークスピアが大好きな役者のセリフ(?)が引用されたりして、ますます作品に深みを感じました。そうして、インド回想から再び、「僕」と「ハル子」の部屋に話はもどって、きれいになった自分の足を満足げに眺めて「僕」にキスをして終わるラストは短編のなかでも美しい終わり方のひとつだと思います。それから「平然と二股を認める僕」だけだったらなんとなく設定にムリを感じるのですが、ここに「女の足を丁寧に手入れしている」という条件が加わっているので、このハル子の二股がむしろふさわしいというか、まさにハル子がイキイキとしてきます。
今期全作品まだ読んでませんが、今のところ一番好きな作品だとおもいました。


#10
図書室の思い出
作者: TM
文字数: 997

養護施設に入った老人の「僕」がいつもみる幻想を語る。それは彼が居酒屋で旧友と再会して歓談するのだが、その旧友は中学校の図書室から飛び降りて死んでしまった男で、もしも「僕」がしっかりと手を握っていれば助かったかもしれない、という旧友の語りを聞いていて「僕」は毎回彼のことを思い出させられるという話。

前半の「僕」と「あいつ」が居酒屋で語る場面は何を話したって後半のオチとは無関係なのだと思うのですが、ここで二人して「批評で注文をつける神様気取りのやつはバカだ」という点で一致しているのをみると、実は作者はこれだけを書きたかったんじゃないか、と思えてきます。神様気取りにならないように気をつけようと反省しました。でも、批評を批判する登場人物が「世界をつくったのは俺様だ」と言っているので、「なんだそうくるのかよ」とも思いました。


#3
ジンジャエール
作者: otokichisupairaru
文字数: 1000

父親は母と離婚して隣町でベトナム屋台を営んでいるが、息子である小学生のちぃちゃんは一度もその父親に会ったことがない。ある日、彼が「私」を連れて父親の店へ行ってジンジャエールを飲み、父親の女からサラダを作ってもらうがサラダには髪の毛が入っていて、殺気を感じるという話。

前半がとっても可愛らしいと思いました。父親に会いにいく「ちぃちゃん」はもちろん、彼についていこうとする「私」はなんて健気なんでしょうか。後半の、会いに行った先の屋台で父親がつくってくれたジンジャエールはおいしそうなのに、女のつくったサラダに髪の毛が入っている、というのは「ありえる」展開だと思いますが、そんな女はあまり魅力がないなあ、と思いました。それに、そもそも一度も顔をあわせなかった父親というのも、ひどい男だと思います。でも、そんなひどくても、やっぱり子供にとっては自分の父親なんでしょう。哀しい話ですね。



#17
海を見ていた(1000文字版)
作者: わたなべ かおる
文字数: 1000

早熟な10歳の少年は部屋の写真立ての中に海をみる。それは大地を包んでいる大きな水溜まりのようで、少年のための海であった。海面と空が見事に溶け合っている景色を眺める一方で、浜辺には誰かが少年を待っていた。そんな折、唐突に母親から声をかけられて、途端に現実に戻ってくる。母親には少年がみているような海が理解できないことを少年は知りすぎていて、「子供らしく」振舞おうとする。すると、さっきまで見えていた少年の海は遠のいていって、いつしか或る枠にはまった「みんなの海」しか見えなくなった。少年は子供らしい振りをして母の手伝いをするけれども、もう見えなくなってしまった浜辺で、自分を待っている誰かにいつか会いに行こうと決意する。

感動しました。小さいときに読んだ「メアリーポピンズ」を思い出しました。


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