尻馬に乗って全感想を書こうと思ったのですが、挫折しました。これは生半可な気持ちじゃ続きませんね。
感想を書いていない作品は、気の利いたことが何も思い浮かべなかったというだけで、すべて何度か読み返していますし、何より楽しんだので、という事で許してください。おもしろかった、つまらなかった、と書いたってしょうがないと思ったので。
にらめっこ開始
はじめの文が何者かが喋っているものなのか、雑誌か何かに書かれたものなのか、それともこの作品の地の文なのかはっきりとはわからないいい加減さが、このナンセンスな作品をよりナンセンスにしていると思いました。おしぼりで拭いてさっぱりしたから山中が山名になったのか、そして山名になった事なんかなかったかのようにまた山中に戻ったのか、というふうに考えたくなるようなナンセンスです。
お別れのキスのことばかり考えていた
はじめの文で、
「そういって笑ったのは僕だったのか君だったのか。」
で終わらせていれば普通の人の思考ですが、
「君は誰だったのか。」
と続ける事で、主人公が正常な情態にはない事を匂わせていると感じました。
なぜか駆け出そうとしたり、背負っている女性は酔いつぶれて眠ったことに「しよう」とわざわざ考えたり、背中からくしゅんという声が聞こえたら普通は目を覚ましたかという方に考えるのに女性が起きなかったらどうしようという方に考えたり、象の遊具が鼻を揺らすのを見たり、月の雫が池に零れる音を聞いたりしています。そして、
「ねえ、僕らが別れた時って、どんな感じだったのかな。」
と、自分とその相手にしか尋ねようのない質問を、「誰にともなく」尋ねてみせます。
最後には、
「今の彼女となら幻想の中に閉じこめられていたあのお別れのキスが再現できるかもしれないとも思う。今の彼女の表情はあの時僕が愛した彼女の笑顔に限りなく近く、触れてしまいたくなるほど」
とまで盛り上がっておきながら、
「仄かには愛しい。」
とはっきりしない愛しさに着地させているところが、主人公の不気味さをよくあらわしていると思いました。
ぷらなリズム
自分の指を包丁で切った時は他人事みたいだった主人公が、プラナリア化してから唐竹割りにされたプラナリアを見て、無責任な掲示板の書き込みに、
「はいそうですかとやってみる気持ちになんてなれない。」
と強く出るまでの流れで、主人公一歩前進というのをしっかり出せていると思いました。
それがあるからこそ、物理的にも仕事の人間関係的にも「切られる」事に抵抗を覚えるようになった主人公がシュレッダーを扱うバイトを始めてしまうというオチがきいています。
こわい話
こわい話をするのがどうしようもなく下手なのにその事にまったく気がついていない女性が、自分では心底おそろしい話をしているつもりで語っている、というふうに読みました。最後の一文はこの女性にとってはたいそう立派なオチであるはずで、どう?こわいでしょ? とじっと見つめられているだろう聞き手の戸惑いを思うと笑えます。
ナガレ
「愛したり、愛されたり」の顔には興味を惹かれました。
流れて来た彼の彫刻刀が主人公を解放するところは「彼」の本当の愛情だというふうに読みました。最後の一文が、その彼の気持ちを受けた上でなされているものだとするとなんとも泣けるラストです。
カメレオン
カメレオンが「読者」だとすると、個人的には破裂しないでどこまでもどこまでも膨らんでいくんじゃないだろうかと思いました。
水晶振動子
「あらゆる現代エレクトロニクスには欠かせない部品」というところから音楽をひっぱり出してくるところがいかにもるるるぶさんという感じがして安心します。
「この小説は水晶振動子なんて名前なのになんでそんな名前の子が出てこないのかしらねえ。」といってしっかり使っているところもサービス精神旺盛です。