こんにちは。60期感想その2です。最初に簡単な要約をしているのですが、それはあくまでも私がその話をどう理解しているかなので、誤読も多いと思います(ご了承ください)。
#15
赤いマリオネット
作者: 藍沢颯太
文字数: 549
仕事帰りの男が夜道を歩きながら、点滅している二台の赤い信号機にさまざまな幻影をみる話。
赤い点滅が赤い微笑になり、微笑は猫の眼に、それは網に、そしてそこに捕われて女性の視線、蕾、濡れた糸、血の針……と言葉のダンスが続きます。しまいには血の針からアスファルトを舐めまわしている老人がでてきて、彼が踊りだすところまでイメージが飛翔していくので読んでいて快感にちかい衝動を味わいました。ジェットコースターでいえば、ぐいぐいと最上点にのぼりつめたところです。ここから残りの文字数でぎゅぅいいん、と急降下してほしかった、というのは身の程をわきまえない贅沢者の意見でしょうか。おもしろかったです。
#31
さらさらの髪
作者: 雨夜
文字数: 897
霧雨の降っているある日、腰まで伸ばした黒髪を風になびかせて歩く女性をみた「ぼく」。彼女は幽霊でぼくにしかみえない、と思い込んでる「ぼく」を通行人は少しおかしい人だとみている。そんな視線に気づいた「ぼく」が(おかしいのは周りだ。なんて怖いことなんだ)と後日語る、という話。
<腰まであるサラサラの黒髪の女性が雨なのに傘もささずに歩いている>という情景はいいなあ、と思いました。物語は、この黒髪の彼女の話と思いきや、「ノイローゼの主人公をめぐる世間の反応」へと映っていくのが個人的には「え?」と少し戸惑いました。作者はおそらく、自分がズレていることを認めずに「怖いのは世間」とあくまで認めない、そのことが「怖い」ということをテーマにおいている気がします。謙虚さを失うことはたしかに怖いことだと思いますが、このままでは主人公に救いがないなあ、と寂しくなりました。
#12
悪戯好きな彼女
作者: HYPER
文字数: 745
小説を読んでいた男が本のあいだに恋人からのラブレターをみつける。読んでみると5年前に書かれた手紙で、「いつまでもあなたの言葉は私の宝物」というようなことが書いてあった。が、その5年前の恋文を見つけた日の朝、同じ相手から「他に好きな男がいる」という別れの手紙も受け取っていた、という話。
恋してる、愛してる、と言っている時の二人には「恋」も「愛」もなかったんだろうなあ、と思いました。別れの手紙を受け取った男がこれからどうするのかにこの男の五年前の「ずっと恋してる」という誓いが試されるのでしょう。おそらくこの“恋愛病”の女はこれから一度、主人公の元に戻ってくると私はにらんでいるのですが、そのとき男はどうするでしょうか。この男が5年間で変わった点がもう少し読めればよかったと思います。あるいはこの男もちっとも変わっていないかも知れません。
#11
短編59期参加作家へのオマージュ
作者: ロチェスター
文字数: 1000
短編59期の作品を何度も読み返していたら、そのキーワードだけで話をつくりたくなったので書いてみました。ジグゾーパズルで遊ぶのが昔から好きでした。楽しかったです。
#21
「人がゴミのようだ」と彼の人は云いました。
作者: 天音
文字数: 756
志望した近所の大学に通えなかった「私」は、むしろ電車で通う大学に入ったことで、早朝ラッシュのサラリーマンの現実を知ることとなる。「兵隊蟻のようだ」と思いながら今はただ大学の講義に備えて「人間として」仮眠をとる主人公の話。
「しばらくは人であり続けるつもりの私は、いずれは自分もそうなるという事への思いもさして抱かず」という一文が印象に残ります。作者自身が「県庁」のサラリーマンであるか、あるいはそのサラリーマンに本当はなりたかった思いの裏返しなのか、と裏読みせずにいられない強い一文です。私自身は自分が今何をしているのかを気づいていて、何が欲しいのかをわかっていれば、サラリーマンでもニートでも水商売でもアパート経営者でも貴賤の区別をつけるべきではないと考えています。同様に大学の偏差値が高い低いより、どの先生がいるか、ということの方が大事だと思ってます。
全体として主人公が自分の進んだ道(大学)をなんとか肯定しようとしている点に好感がもてました。小説はそうでなくちゃいけないと思います。