コロナ騒動のおかげで(せいで、ともいう)、時間を持て余しております。
よって、懲りずに全感想を。
超個人的な総評として、今期の作品はどれも好みでした。
それぞれオリジナリティがあり、書きたいことが書きたいまま描かれており、読んでいてとても気持ち良かったです。
あらためて、このような素敵なサイトを長年運営してくださっている北村氏に、深い謝意と敬意を。いつもありがとうございます。
1.ひとり暮らし
一見、よくある幽霊モノだと思って読んだのだけど、それだけではないのかもしれない。
最後の一文は幽霊よりもっと邪悪なというか、恐ろしいものを予見させ、それがなんなのか私には分からなかったのだけど、背筋が冷たくなりました。
いずれにせよ文章がとても上手なので、それだけで十分読む価値のある作品でした。
2.名探偵朝野十字の理由なき反抗
物語の終盤でタイトルの意味が分かり、にやりとさせられた作品でした。13歳というと、ちょうどこれから思春期を迎えるくらいのお年頃でしょうか(アンドロイドに精神年齢があるのか謎ですけど)。
閉じ込められた猫に対するアンドロイドの苦悩。人間に知らせるべきだという大人な一面と、偽善者ぶりたくないという駄々っ子の少年のような一面、その両方が垣間見えて面白かったです。
いつもながら、名探偵である「先輩」が答えを導きだすのが余りに唐突かつ一瞬なのですが、それが先輩の天才性というか、名探偵っぷりを強調しているようで痛快でした。
3.鏡の向こう側
鏡をとおして過去の自分と対面するというのは、ありそうでなかったアイデアだなと思いました。
母の死やいじめ、うつ病など暗いテーマが中心になっていますが、最後の最後にクスリと笑わせるオチを持ってくるあたり、作者の優れたバランス感覚を感じさせます。
中学生のとき不思議な体験をした私が、大学生になってその真相に気付く、答え合わせをする、という構成はとても面白かったです。
4.春のひぐらし
枯山水の石庭を温泉(正確には足湯?)に例える発想力がすごい。
そして一つ一つの描写の密度がすごい。例えば、ちょっと訳ありげなカップルについての描写。「男の声はとても低く、しかし、この地方のアクセントなのだろう、思いも寄らぬ抑揚と節回しがあり、ごつごつとした丸みがある。そこに軽く絡みつく蔦のように女の声が聞こえる。」。もうこれだけでお腹一杯になる。物語にはあまり関係ない描写だが、このリアリティ、立体感。何事かと思う。
話全般をとおして、「音」と「無音」の対比が見事でした。
5.愛着
「こちゃこちゃした感じ」という表現がとてもいいなと思いました。ごちゃごちゃ、では少し雑味があるし、言い得て妙だなと。
相手の趣向が分からず無難な物を多数寄せ集める、というのは私もよく経験するので「あるある」感がすごかった。物に感じる特異な感情、それが「愛着」なのですね。
6.永遠の絆
従者たる異国の者(私)の影響で殿下も姫様に似てきている、というのが面白い。それだけ私が信頼され、殿下のそばに仕える時間が長いのでしょうね。
鎖国した国の殿下でさえ変える影響力が私にはあり、それだけ魅力的だということなのでしょう。
7.雲に住む魚たち
前作がとても面白かったのでかなり期待して読んだ作品。そして今期も面白かった。他の作品と比べて半分程度の分量しかないのになんら見劣りしないのは、描写に過不足がないからだと思う。
「黒鉛がなぞった文字の川を日の光たちが泳ぐ。ここには雲を泳ぐ魚の物語が住む」っていい表現だなあ。
幻想的な中盤からしっかりと現実世界に引き戻す物語の畳み方も見事。
8.静心なく
自作につき感想割愛。
9.古き友の形
薄情すぎる妻のリアクションがおかしくて笑えたが、流石にお父さんがちょっと可哀そうでもある。
他人にバイタルデータまで同期させるって、よくよく考えてみれば結構なホラーだ。でも単なるSFでは終わらせない展開のさせ方が秀逸。
まさか最後の最後に古代ギリシャの格言を引っ張ってくるとは。良い意味で期待を裏切られました。