「てんとう虫」
小説として読もうとしても、主人公と他者(又は自身の内面)との関係性がないので、小説として読まれることを拒否しているように映りました。
「少し複雑なきもち」と「悩みの種」は具体性を持って書くべきで、それがないから、その後も何を書きたいのかが分からない。書きたいことが不明だから、どう読むかが曖昧になってしまいます。
「てっぺんを目指す」ことは特別な意味を連想させますが、それに対する伏線がないので、目指すこと自体が意味のない言葉になっていると思いました。
「若人は我が物顔で森の中を練り歩く」
何が書いてあるんだろう、と読んでいて、ついつい先へと進んでしまった。それぞれの人物に少しはずれた行動はあっても、一大事(実際にクマが出る)が起こるわけではないし、それでいて、小気味好くて、好印象を持ちました。
地に足がついているというか、その場の登場人物が実像を持っている感じがして、その実態が単なる描写ではない深みを作品に与えていると思いました。
「9448904390」
数字の意味するところが分からない。
何かのヒントが与えられていて、それによって数字の繋がりが分かってくれば面白いと思えますが、それが見えてこないと単なる数字の羅列であって、面白みがよくわかりません。
タイトルの数字は米国の電話番号のようではあるけれど真意は分からない。また、文中の数字を足すとタイトルの数になるのかも知れないけれど、仮にそうだとしても、そこに意味はないだろう。最後に出てくるマイナンバーは本来12ケタなので、タイトルや文との関係性はないように思うが、もし、何らかの意味が潜んでいるのであれば、解説を求めたいと思いました。それが分かれば、作品の評価は変わると思います。
ただ、実験的作品ということであれば、それはそれで可です。
「milk pan」
タイトルは鍋(pan)を言っているのに、本文では食べるほうのパン(ミルクブレッド)であることに違和感はありますが、内容には好感を持ちました。ただ、「毎朝決まった〜〜アラームの音。」で場面が変わっているのだから、改行は必要のように思うし、「私の思うそれ」ではなく「彼の思うそれ」のほうがしっくりくると思いました。
作者の醸し出す詩的さは残しつつ、彼のダメさなんかがもう少し書かれて(文字数に余裕があるから書き加える余地はある)あれば、より良くなったように感じました。
「電車にて」
誰に何を書いているのかが見えてこない。
ある地点からある地点の時間の経過、空間の流れを文章にしているのは分かりますが、何かには向かっているが不明な言葉があって、それが最後に繋がって腑に落ちるとかではないし、出会いや事件などのドラマ性を含んでいるのでもないし、だったら心情があるかといったら、それも汲み取れないし、起承転結を意識しているのでもないから、どこにどう着地して読んでいいのかが分かりませんでした。
「五輪書」
夏だから怪談でも書こうとしていて、でも普通の怪談もいやだからとか考えていて、なんだかんだでこの内容になりました。
過去を思っている主人公は未来にいて、それを読んでいる読者は今にいます。
「終わらない国」
作者の作品の中では比較的分かりやすかったです。ただ、死や復讐がパターン化している印象は強くて、よって新鮮味はありませんでした。
作者の中の残酷さをまとった悲しみや怒りはどこから生まれるのでしょうか。そして、それを書き続ける意味は何なのでしょうか。こういうことを書き続けると、そこに潜む報われなさを掻き消そうとして、作品が明るさやユーモアのある方向へ持っていかれるものですが、それが見えないのは何なのでしょうか。明るさやユーモアがないから、兆しがなくて、ただ単に落ちていくだけの小説になっているのは読んでいて苦しいのです。
「火星小説」
内容というか、小説のパターンは作者のそれであるし、娯楽としてちゃんと作ってあるから、票を入れない意味は見出だせないし、それなりに面白いし、それでも、何か物足りないのは、1から10まで全てが過不足なく繋がっていて分かりやす過ぎるからなのではないでしょうか。そんなことを考えるのは、わたしの嫉妬かも知れません。
ただ、ストーリーは、この短編サイト自体を皮肉っているようで好感が持てました。