「怠け女」
涙が止まったということは、夫は無意識に女の死を求めていたのであろうか。少なくとも私はそう解釈したが、そうなると、夫の愛とはなんなのであろうか。でも、夫の愛を読者への媚と捉えると納得もいく。私には女の自発的な生は感じられなかった。
小説の細部にこだわるのはリアリティの追求からだと思う。逆に言えば不完全なリアリティが不自然さをより強調することにもなる。女は動けるのか、動けないのか。動こうとしているのか、動く気力もないのか。「怠け女」というタイトルがどうも引っかかっている。女は本当に怠けているだけなのであろうか。タイトルを無視すればALSのようなことだって考えられる。とにかく女の現状を考えれば、これは殺人である。それも望んだ結果の殺人である。
「蜘蛛」頭
夢の中の蜘蛛と(夢か現実かの)妻を行きつ戻りつして展開させる場面は秀逸だと思う。不満を言えば状況描写だけで、動機や感情が希薄なところであろうか。
最後のほう、息子が妻(母)の遺体を乾燥させているのか、(妻と一緒に殺した)息子を乾燥させているのかは不明であったが、夢の内容から察すると妻と息子を同時に殺したのであろう。もしかすると胎児だったのかも知れない。そこらへんはすごく曖昧な描写である。最後に、何百匹の意味は理解できなかった。
「ぬるっと暑いこんな日は」
まず、季節感がな、というところで引っかかった。前作にも似た(歌詞のような)構成と表面だけをさらったような感情が私の介入を遮ってしまった。とにかく体裁を保った言葉を並べただけのようで、頭に入ってこなかった。
「ドライサーディン」血
小説自体に何もない。最後のセリフはこの小説自体を表しているのではないだろうか。はじまりもしなしいし、オイルサーディンである意味もない。フリーマーケットや煙草からも意味が汲み取れない。彼女は何かの比喩だと思うが、何の比喩だかは分からない。そんな、何もないことが面白いと考えた作者の感情、もしかして面白いのかも、と感じた作者の感覚はいい。ただ、読者とすると、それは、物足りなく感じる。一周まわってそれはそれでいいのかもしれないが。
「おでんわ」
まず、タイトルはいい。で、あとは読まなかった。いや、読もうとしてあきらめた。誤変換とかデタラメな言葉を並べて、どう、すごいでしょと訴えかけている作者がいて、確かに不明なことを並べた先にある感覚もあるにはあるが、流れるテーマやそれに類するものは感じ取れなかった。だから、単なる解読不明な語と私は捉えた。おでんわには情緒があるのに、なんかもったいない。
「桃太郎」
誰もが知っている話しをベースに。
「君が好きで。」
何かすごい浅いところで展開しているな、という感想が終止付きまとってしまった。それがいいという読み手もいると思うが、私はそうは思わない。もっと極端に鬼畜でも良かったとも思うが、純愛を書きたかったのであろうか。どっち付かずになってしまったのではないだろうか。もし、もし、もし、で刻むリズムも、内容が平凡であるため、沈んでしまっている。若さではなく、青さを感じる作品である。
「ぼたんゆき」
チャペラリは単なる(意味のない)音なのであろうか。もし彼女が弘子(平凡さがある名前)であったならこの小説は変わったのであろうか。私はチャペラリに必然を感じなかった。弘子(あるいはローズ)でもいいと思う。小説の平凡を消すためにチャペラリを使っただけのようである。それはそれでいいかもしれないが、そうだとすると、チャペラリという奇以外に小説に何が残るのであろうか。
「Gustave」
読めん。前後関係から何となくストーリーは分かるが、いちいち読みを調べる気にはなれなかった。読めない言葉を使わないと作者の小説は成立しないのであろうか。
「夜のむこう側へ」なんかは分かりやすくて良かったと思う。分かりやすいとは、簡単ということではなく、やさしい言葉の奥にある心理を読み取りやすいということである。読めない言葉は小説の深部にフタをする。
「手続き」筋
奇しくも前期の「健常」を考えてしまった。作者はそんなこと全く考えていないとは思うが、人間ではないもの、権利が剥奪されたもの、言葉をなくすということは、自らを証明できなくなってしまうということと同意であると私には思えた。猫は弱者の象徴であり、何かすごく闇や、やるせないものを感じてしまった。私には後味の悪い小説である。だからといって、これはひとつの小説の形態であり、否定する気はさらさらない。
「新しい」手足
最初の二行のもったいぶりさ。1000文字にするための策であろうか。
病気で死ぬことはまともではない。ならば、まともな死とは何であろうか。死と別居云々は関係ないが、そう意味付けることで主人公はまともでないと思い込んでいる自身の正当性を主張できる。それ自体は少し古くさい。セックスは溺れるのか。ただ、飽きさせずに最後まで読まされてしまうのはスゴイと思う。
「私立うっふん学園」足
学生服泥棒。おもしろいな。おもしろい、だけでいい。小難しい感想はいらないであろう。
「読めない言葉」とは具体的になにを指していらっしゃいますか?
〉「Gustave」
〉 読めん。前後関係から何となくストーリーは分かるが、いちいち読みを調べる気にはなれなかった。読めない言葉を使わないと作者の小説は成立しないのであろうか。
返事遅くなりました。
「Gustave」
「狗」
「巨躯」
「熾し」
以上が分からなかった言葉です。
私の解釈からすると、巨躯(きょく)が鰐(わに)ということは、巨躯はGustave(大きいわに)ということか。狗は犬であるが、暗闇の中の犬は狗ではないのか。
ちなみに前作の「蛟」や「粃」も読めませんでした。
作者の小説はただでさえややこしい。その上、難読文字が含まれると、飛ばし飛ばし読んで、表面上の意味(euRekaさんも似たような感想を書いている)だけを読まされてしまうのです。
ただ、そのことを否定するつもりはありません。そういう表現方法があってもいい。
〉「読めない言葉」とは具体的になにを指していらっしゃいますか?
〉
〉〉「Gustave」
〉〉 読めん。前後関係から何となくストーリーは分かるが、いちいち読みを調べる気にはなれなかった。読めない言葉を使わないと作者の小説は成立しないのであろうか。